第十四章 〜 S極とN極 〜
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音楽室に流れるセックスピストルズは、なんか不思議だった。いつきが足でリズムを取りながら小さく口ずさむ。磯野さんはイスに座って、ジッとしている。僕は夏独特の湿気を感じながら空に浮かぶ入道雲を見ていた。何曲も流しながらボリュームを下げていつきが話し始める。
「こんな感じでさ。ドラムって後ろでバンバンなってる楽器なんだ。ベースは分かりづらいけど、ズンズンなってる楽器。ほら、このドラムセット座ってみない?」
イスから立ち上がった磯野さんがゆっくりとドラムセットに向かう。まるで彼氏と彼女のようなやり取りだった。いいよなぁ、いつきは。女の子にだって、僕と変わらないように接してる。友達なら当たり前なんだろうか。一緒に話したり、一緒に帰ったり。なんで朝、僕は一人で変に緊張して冷たくしちゃったんだろう。転校して友達も他にいなくてどれだけ不安なのか分かるはずなのに。
「そうそう、そこに座ってさ。右手でハイハット、これこれ。それで左手でスネアなんだけど・・・」
よく分からない言葉でいつきが説明をしている。細い体でドラムセットに座っている磯野さん。僕だって、本当はバンドをしてみたい。でも、どうしても人前でギターを弾いたり、ましてや自分が唄を歌うなんて恥ずかしくて想像が出来なかった。なんの取り得も無い僕が。