第十四章 〜 S極とN極 〜
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授業が始まると、男女、両サイドに分かれてクロールや平泳ぎの練習をする。何気なく見ると、体育座りをした磯野さんがこっちを見ていた。いや、こっちを見ているのか、空を見ていたのかは分からない。でも、なんとなく僕と目があったような気がした。
水の中へもぐると皆がユラユラと揺れてる。水の中には音が無いと言うけど、ゴーゴーと音が溢れる。苦手な平泳ぎで息継ぎをする度、水面からプールサイドにいる磯野さんが見える。夏の日差しの中、季節を感じない灰色の子。
教室へ戻って、着替えていると、いつきが話しかけてくる。いつきは今日も、プールの度、体育の度に新しいシャツへ着替える。僕の家とは全然違う、やわらかい甘い匂いのする洗剤のせいか、女子のような感じさえする。
「なぁ、このあと、お爺ちゃんのところ行く時さ、帰り音楽室よってみようぜ。今日って確か音楽室開いてる日なんだよ。軽音楽部も吹奏楽部も今日は使ってないんだ。磯野さんにドラム見てもらおうぜ。」
「そうなんだ、いいよ。行く。」