第十七章 〜 スメル ライク イブ 〜
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「なにしてんだよ!台所にいてよ!」
「何言ってんのよ、お客様にお茶くらい出さないと。こんなに暑いんだし。ねぇ、磯野さん。そうそう、うちのお父さんと、磯野さんのお父さん同じ部署なんですって。息子も一緒に友達になるなんて、偶然も重なるものね。」
「もういいよ、これからカセット聴くんだから、ちょっと台所行っててよ。」
「はいはい、じゃぁ磯野さんゆっくりして行ってね。」
お母さんが台所へ何度も笑顔で振り向きながら向かって行った。こんな顔するのを見るのは、本当に久しぶりだった。
「ご、ごめんね。お母さん、僕が初めて友達連れてきたもんだから、き、緊張してるんだ。あっ、お茶飲んで。」
カセットテープを巻き戻す間、ゆっくりとお茶を飲んでメモを取り出して、座っている磯野さん。顔の腫れは見えない。自分の家に友達、女の子がいるだけで、全然違う印象になる。キュルキュルとカセットを巻き戻している間も、僕らはただ、待っていた。僕はカセットデッキを見ながら。磯野さんはどこを見ていたんだろう。