小説

著:やまももけんじ

『 方舟がキミを運ぶね 』

第十七章 スメル ライク イブ

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第十七章 〜 スメル ライク イブ 〜
P.10 

「磯野さん?」

そう言うと同時に磯野さんはおじぎをして、玄関に走って行ってしまった。お父さんも少し笑顔でおじぎをして玄関へ消える。何がなんなのか分からず、僕はそこへ立ちすくんだ。それは、磯野さんのお父さんに会ったことも、もちろんそうだけど、家に入って一緒に音楽を聴いたこと。お母さんに紹介したこと。朝のアザのこと。全てが何がなんなのか分からずに僕は立ちすくんでいた。

我に返って、家に帰ろうとした時だった。家の中から声が聞こえた。

「ただでさえ大変な時期なのに、友達と遊んでいい身分だな!ようやく早く帰ってみたらどうだ!男だと?お前一体何を考えているんだ!」

と同時に鈍い音が響いた。それは何か硬いものが当たる音じゃなく、鈍い音だった。どんな感じかって聞かれても鈍い音。というしか答えられない音だった。そして、もう一度、その音が響いた。その直後に、大きく「ガシャン」という音が鳴った。

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