第十七章 〜 スメル ライク イブ 〜
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「もういい!私が行ってくる。その間に、全部片付けておけよ。ラジカセだって、今の男のだろ、お前は勉強して家にいればいいんだ。音楽なんか聴く必要は無い。さっさと捨てろ。また壊されないうちに、せいぜい謝っておくんだな。こんなものお前に必要ない!高校にいかせてやってるだけでもありがたく思うんだ。」
僕は慌てて、木に隠れた。暑さも寒さも感じていないのに、体中が震えている。心臓が破裂するような速さで動く。いったい何が起こっているんだ。さっきのは一体何の音だったんだ。磯野さんのお父さん何を言ってた?カセットデッキを壊した?磯野さんに何が起こった?なにが起こった?ナニガオコッタ?頭の中で色んな感情がグルグル回る。理解出来ないと思うようにしていた。息が苦しい。呼吸がうまく出来ない。磯野さん。磯野さん。磯野さん。戸が開いて、お父さんが出てくる。昨日、磯野さんが引いていた自転車にまたがって、坂道を下っていく。ものすごい恐怖心で体が動かない。
でも、気付いたら戸の前に立っていた。戸に手はかかっているのに動かない。カタカタと震えながら汗がお腹をつたっていくのが分かる。