小説

著:やまももけんじ

『 方舟がキミを運ぶね 』

第十五章 ホーム

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第十五章 〜 ホーム 〜
P.9 

「ご、ごちそうさまでした!もう行くよ、家の片付けもあるだろうし、僕いたら邪魔でしょ」

私も出ます。晩御飯の買い物。

「ご飯って磯野さんが作ってるの?」

うなづいたように見えたけど、分からない。台所から大きな買い物袋を持って、磯野さんが準備をし始める。玄関のヘルメットをかぶりながら二人でまた外へ出る。

この町には小さな商店街が二つくらいある。もちろん大きなスーパーなんて無くて、個人の八百屋さん、新鮮じゃないけど魚屋さん、割と大きな酒屋、お肉屋さん。皆、時間は違うけど、そこへ買い物へ行く。そこしか買う店が無いんだ。

僕が外へ出て待っていると、磯野さんが大人用の自転車を引きながら出てきた。お父さんの自転車だってすぐに分かるくらい地味で大きな自転車。坂道を歩いていると、太陽がもう沈みそうになっている。

「夜にピストルズ聞く時さ、音気をつけた方がいいよ。僕は音楽のことよく分からないけど、ビックリすると思うよ。なんかね、すごいんだ。普段テレビで流れてるのとは全然違うから。」

なるべく普段通りの自分で話していたつもりだったけど、僕はまだドキドキしていた。初めて女の子の家へいって、初めてお茶をした。これって本当にデートみたいだ。磯野さんはどう思っているんだろう。都会じゃ、こんなの普通なのかもしれないな。いや、普通の高校生の友達じゃこんなの普通以外の何でもないのか。

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