第十五章 〜 ホーム 〜
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自分の家が見えてきて、昨日別れた道に近づいて気付いた。このカセットデッキは、女の子には持てない、持てないじゃないか。どうする・・・でも、このまま、磯野さんにカセットデッキを渡して帰す訳にはいかない。
「これ・・・カセットデッキ重いから・・・家まで持っていくよ・・・こっちの山のほうでしょ?・・・い、行こう。」
磯野さんの方は見なかった。どうしようも無い、僕だって、一応考えた。女の子の家まで男が送るなんて、どう考えてもおかしい・・・でも、このカセットデッキを磯野さんに渡して、そのまま帰っちゃいけない、絶対に後悔する。
自分を変えなくちゃいけない。それにいつきだったら、何も考えずにそうしている、絶対に。そう自分に言い聞かせながら僕は歩いた。磯野さんがどう思おうとするしかなかった。ただ、重たいから運んでいるだけだ。変なことは何も無い。
自分の家をとおり過ぎて少し歩いていくと、山道に入る。入り口の家のお婆ちゃんのところには回覧板を届けに行くからなんとなく分かるけど、奥の方は滅多に行かない。子どももいないし、昔の空き家が数件あるところだ。
「まだ奥?」
首を下に少しうなずきながら僕の少しだけ後ろについてくる磯野さん。坂を歩いていくと、セミの声が山からゴーゴーと太い一つの声のように聞こえる。小さな沢が横に流れているから、湿気もあって、僕は余計に汗だくになった。数件の空き家を通り過ぎたところで、磯野さんが、止まった。沢の横に、古い平屋の家があって、表札には、真新しい「磯野」という文字が掛かってた。