第十五章 〜 ホーム 〜
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「あっ、ここなんだね、じゃぁ玄関まで行くよ。お父さんが帰ってきてから運ぶか、お母さんに運んでもらえばいいよね。」
門の芝生にカセットデッキをゆっくりと置いた。そして振り返ると、
『 入り口横の部屋に置いてくれますか 』
と、書いてあるノートを見せてくれた。
「いいけど、お母さん、今いないの?買い物いってるとか?」
『 りこんしていて、お父さんと二人です。 』
「り・こ・ん?」
離婚・・・父親と母親が別れて別々に暮らすこと・・・小さな片田舎のこの町で、離婚だなんて今まで聞いたことが無かった。事件なんてものは何一つ無いし、駐在所にはいつも、お婆ちゃんたちが集まって世間話をする始末。消防団の集まりもお金だけ集めていつもお酒を飲むぐらいにしか使っていない。
「そうなんだ・・・た、大変だね・・・」
あいまいな返事しか出来ずに、ダンボールだらけの部屋にカセットデッキを置いた。振り向くと、磯野さんが台所で何かしている。山の中にあるから台所は薄暗かった。灰色の髪の毛がより一層濃く見えた。
『 向こうから持ってきたお茶だけど。 』
ノートと一緒に出してくれたお茶は温かくてうちでいつも飲むお茶とは何もかも違った味がした。女の子の家にいて、二人でお茶を飲んでいる。ただ友達なだけなのに、僕の心臓は早く、そして大きな音で響いていた。
ただの友達だろ、一緒にバンドやろうって言ってるだけの友達だ。ただ、カセットデッキのお礼にお茶出してくれただけじゃないか。話をするわけでもなく、セミの声が響く。扇風機の風がお互いを順番に吹いていく。