第十五章 〜 ホーム 〜
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「・・・でも・・・磯野さんのドラムしてるところカッコよかった、ちゃんと叩けてたし、すごいよ。・・・だって、初めてドラムさわったんでしょ?すごいよ、音楽の才能あるんだよ、絶対。うらやましいよ・・・。
あっ、今度いつきの家行ってみるといいよ。工場の中なんだけどね。和風の家がポツンとあってさ、いつきの部屋って凄くて、もう一つ部屋があるんだ。ピストルズのポスター沢山貼ってあったり・・・」
一瞬、気付かなかった。磯野さんがノートを出していること。何か僕に見せていること。
『 手首のきず ひみつにして下さい 』
「・・・キズ?」
なんのことだろう、キズ?傷?腕に傷?
「秘密って・・・?怪我でもしたの?ドラム叩くのに痛いとか?」
家までちょうど半分くらいまで歩いたところに、大きな柿の木がある。あぜ道にある少ない木の中の一つ。磯野さんがそこで立ち止まった。不思議に思って、僕も止まった。何か書いているけど、考えながら書いているのか、時間がかかってる。カセットデッキを地面に下ろして座る。日差しが無いだけで涼しい。風があることに、その時初めて気付いた。自分の汗が冷たくて気持ちよかった。磯野さんは相変わらず何か書いている。