第四章 〜エレクトリック〜
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「もういいか・・・見られたならしょうがないもんな。・・・・・俺はさ、ほんとはこんな性格じゃないんだよ」
「・・・・えっ?」
ヘトヘトになって頭も回らないし、僕はいつきの言っていることが理解出来なくて、ますます混乱した。本当に疲れていた。でも今思うと、いつきの言ったことは、たとえ平常心だったとしても理解出来なかったと思う。その証拠にいつきの口調が変わったと気づいたのはもう少し後だった。
「体育着を忘れて困ってたのは本当だった。本当に困ってた。・・・でも、君が声をかけて来た時に、またかって思ったよ。俺の親が工場長だから。俺がその息子だから。だからまたうまい具合に友達になろうって話しかけてきた奴が来たって思った。
本当はさ、俺、最低なんだよ。最低のクズなんだ。今までに何人もそうしてきたんだ。君みたいに話しかけてきた奴らはみんな、将来方舟で働きたいとか、親が働いてるからとか、なんでも俺の立場を利用する奴らしかいなかった。・・・・だから今日の君みたいに何人もはめてきたよ。何人も警備員に捕まってる。」
「・・・・・・うそだ!だって、そんな事件聞いたことない!」
「そうだよ、俺が警備員に口止めしているし、学校側にも父さんから圧力をかけてもらってるんだ。」
気づいたらいつきと目があっていた。透き通るような目だけど、恐怖を感じるような目でもあった。地平線を泳ぐ雲が学校を包み始める。屋上も全て雲に覆われて日陰になった。一層いつきの顔が黒く影のように見える。