第四章 〜エレクトリック〜
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「・・・・幼稚園の時は無かった。送り迎えで幼稚園の外へは出なかったから。小学校に入学してからすぐだったよ。本当にすぐだった。5年生、6年生、中学生の不良が声をかけてきてさ。俺だってそりゃ怖かった。今まで何にも知らないで生きてきたボンボンだったけど、雰囲気でなんとなく分かるんだ。何かがこれから起きるんだって。
奴らはさ、最初はすっごく持てはやすんだ。父さんがいかにすごいか。俺がどんだけすごい奴かって。7歳の子どもだけど、それはうれしかったよ。父さんを褒められるんだからさ。でも、少しずつ変わってきたのも感じた。やつらさ、俺を使って、色んなことを要求してきた。しかも俺には分からない様に。一緒に遊ぼうって毎日帰りに待ってるんだ。家に連れて行ってほしいだの、家族に紹介して欲しいだの、家はどんな感じだの。
まだ7歳の子どもだぜ?何も分からなかったけど、父さんからは、どんな友達も家には連れてくるなって教えられてたから、そこだけは守ったよ。父さんが恐ろしいのはホントなんだ。でも奴らはそんなの知ったこっちゃない、家には連れて行けないって話していたら、少しずつ態度が変わってった。優しい友達だと思ってたのに、どんどんいじめられてくんだ。いや、脅されていった。見えないところを殴ってきたり、トイレに連れてかれて、便器に顔突っ込まれて将来俺を方舟の工場長にしろとか、自分を方舟の幹部にしろとか、親に親友だって紹介しろとか、何から何までされた。想像出来るか?7歳の子どもにだぜ?だから・・・子どもだったけど、考えたんだ。奴らをどうにか出来ないかって。
そして方舟に閉じ込めようと思った。ただ、奴らをどうにかしたかったから。
君と同じように親に秘密で家に呼んでさ。俺が抜け出して、奴らを閉じ込めた。もちろん出る時のパスワードなんか教えてないから奴ら必死なんだ。影で見てたけど、方舟に開けてくれ開けてくれって叫んでるんだ。でも、もちろんトビラは開かない。警備員が出てきて・・・・・もう後は分かるだろ?友達を呼んでることを知らない警備員が奴らを羽交い締めにしてさ。あいつ等言うんだ。「いつき君に呼ばれてきた!いつき君に聞いてくれ!」って。
でも俺は知らないの一点張り。きっと、家に入る時に隠れて入ったんだ、って言った。その時のあいつ等の顔見せたかったよ。親の未来も、自分の将来も無くなるって子どもでも分かるんだよ。泣く奴もいれば、泣く事も出来ずにただ、立ってる奴。どうしようも無くてただ、皆おびえてた。あいつ等と話がしたいって俺が言ってさ。そして、この事は誰にも言わない。親にも、学校にも、誰にも。警備員には黙ってるように伝える。だからもう二度と、俺には関わるなって言った。7歳で人を脅そうなんて思ってなかった。俺だって、騙したくなかったけど、やるしかなかった。
そしたらさ、あいつら、二度と近づいてこないんだ。笑えるよな。方舟がいかにこの町での存在が大きいかってその時分かった。いかに工場がこの町で大きな存在なのかって。復讐も考えられないんだ。知ってるか?今の町長だって、前の町長だって、方舟の関係者だよ。いや、方舟がきて、この町は発展したんだ。ようするに本当にノアの方舟なんだよ。歴代の町長はノアが飛ばしたハトって訳さ。それからは、俺に方舟のことで近づいてくる奴らは皆こうしてはめてきた。今、回りにいる奴らも態度が変わったら方舟に閉じ込めるつもりだよ。」