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応援席には友子(市毛良枝)、キヌ(花原照子)、法子(浅見れいな)も姿を現した。きょうは男子部のレースが先発だ。スタートダッシュに成功した松山第一は2位との差をドンドン開いていく。昨夜の口論が嘘のように浩之と三郎の呼吸はぴったり合っていた。ところが誰もが勝利を確信した瞬間、下級生のオールが止まった。結果はゴール直前で抜かれて4着。「俺のせいで本当にすみませんでした」。うなだれる下級生に対して三郎は顔をそむけたが、浩之は「一緒にこいでくれてありがとう。来年はお前がこの部、引っ張れ」と激励した。そんな浩之を三郎は驚きのまなざしで見つめていた。
男子部の惜敗ぶりを目の当たりにした女子部のメンバーは、口々に弱音をもらした。「やっぱり悦ネェがおったらなあ」。みんなが我慢していたその一言にくってかかったのは、当の悦子だった。「そんなん言い訳や。みんなならできるよ」。悦子は自分の弱さを打ち明けた。なりふりかまわない悦子の言葉に利絵たちの表情に自信がよみがえってきた。スタート地点に向かうみんなを見送った悦子は、仁美にだけは本音をもらした。「本当はこぎたいです。みんなと一緒に」と。
女子部の準決勝は激しい接戦になった。悦子は、利絵たちのボートに合わせて湖畔を懸命に走りながら「ファイト、松山第一っ!」と声援を送った。悦子の呼びかけで再びチームは一丸になった。結果は4着。しかしあの日、あの会場にいたすべての人にとって決して忘れることのできないベストのレースだった。「ご苦労さん。みんなようやったよ。素晴らしいレースやった」。仁美がねぎらいの言葉をかけると、悦子 が代表して「応援ありがとうございました」と挨拶した。一斉に拍手がおこった。どの顔も充実感にみちていた。こうして悦子たちの最後の夏は終わった。 >>
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