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悦子はやっと主治医から登校を許された。教室に入るとためらいながらも浩之に保健室まで運んでくれた礼を言った。「いい加減ブーって呼ぶのやめや」「ブーはブーやろ」。わだかまりなどすぐにふっ飛んでしまった。楽しげにはしゃぐ姿を利絵がつらそうに見ていたのに2人は気づかなかった。
悦子は部活はまだ止められていたので、利絵が代理キャプテンを続けた。「今日は長い距離どんどんこいでいこうと思う」。岬まで10往復、20キロ。レースで完全燃焼するにはこいでこぎまくるしかない。根本から教えられたロウアウト精神を習得しようと利絵は考えたのだ。悦子は「いきなり20キロは」と不安をもらしたが、利絵は「見学しとったらえやない」と冷たく言い放した。「やる前から諦めんと挑戦してみよや」。利絵の言葉に押し切られるかっこうで多恵子たちは「やろう」とうなずいた。「声出していこう」。ボートはゆっくりと海上をすべりだした。悦子の代わりは1年生の文江(土屋詩穂)だ。今日は気迫が違う。ボートはぐんぐんと進んでいく。しかし砂浜から見ていた悦子は真由美の様子がおかしいのに気づいた。苦しげな表情がふつうではない。「戻って!オールメン、バック!」。悦子は濡れるもかまわず海に入っていった。
途中で砂浜に戻ってくるなり、利絵は「なんで練習の邪魔するん?」と悦子にくってかかった。悦子は「どうしても気になって」と言うと真由美に駆け寄るが、真由美は「平気よ」と気丈なところを見せた。利絵は「私らはもっと頑張ろうとせんからダメなんよ」と決めつけると練習を再開しようとするが、悦子は「ダメやない」とさえぎった。「私ら、ええとこたくさんある思うんよ。自分たちのペースで楽しくこぎたい」。
悦子に促されて真由美は「しんどい」ともらした。勝ちたい一心で始めたダイエットだが、思うように体重が減らずにずっとご飯を食べていなかったのだ。「無理せんでええよ」「ありがとう、悦ネェ」。真由美が涙をぬぐうと悦子はホッとした。利絵はいたたまれず立ち尽くした。
キャプテン失格に落ち込む利絵に浩之は「お前、ようやっとった」と労をねぎらった。突然思いのこみ上げてきた利絵は「関野君のことが好き…」と告白してしまう。けれど浩之の表情が見る見る曇ったのを目の当たりにして、利絵はその場から逃げるように駆けだした。翌日利絵は部活に姿を見せなかった。そして次の日も、その次の日も利絵はやって来なかった。 |
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