第十六章 〜 グリーフ 〜
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『 聴けていません お父さんに見つかって聴けませんでした 』
「そうなんだ。でもさ、ピストルズ聴けば世界ズの音楽になるって訳じゃないし、そんなにいそ・・・」
その時、何気なく磯野さんのアゴが見えた。下を向いているから普段より顔の線が少しだけ見えたんだ。
「ど、どうしたの!その顔!腫れてるよ!どうしたの?」
僕は何も考えずにそう言ってた。何も考えずに。磯野さんのアゴと下唇が赤く腫れていた。
「ちょ、ちょ、ちょっと、待ってて!」
走って家に戻ると、冷蔵庫から氷を何個か掴んで洗面所のタオルで包む。
後ろの方で母さんが何か言っている。「なにかあったの?忘れ物?」返事をしないで僕は全速力で家の中を走っていた。そして、クツもちゃんと履けていない中、磯野さんのところへ向かった。