小説

著:やまももけんじ

『 方舟がキミを運ぶね 』

第十六章 グリーフ

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第十六章 〜 グリーフ 〜
P.1 

第十六章 〜 グリーフ 〜

中々眠れなくて結局12時を回ったあたりまで布団で考えていた。

一瞬見えたあの顔。今でもはっきり焼きついている。目を閉じると真っ暗の闇の中で磯野さんがこっちを見ている。あの顔で。
最近不思議に思うのは、夜に眠ろうとして目を閉じても、一度も真っ暗闇なんかに見えたことがないこと。黒の絵の具を水で溶いた時みたいに、グニャグニャって白と黒が混ざるような景色が広がる。無限に。前に進んだり、後ろに下がったり、上下逆さまになったり、周りの物が巨大に見えたり、小さく見えたり、自分が宇宙の中にいるような感覚になる。その中で磯野さんが遠くへ行ったりはるか彼方からこっちへ来たりする。
でも顔は決して笑っていない。

気付いたら朝だった。今日は目覚ましは鳴っていなかった。昨日スイッチを入れ忘れてしまったみたいだ。外は曇りらしく、まだ薄暗い。
ボーっとした頭の中で階段を降りていく。

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