第十六章 〜 グリーフ 〜
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いつきは笑ってた。僕と出会う前だったら、今のふざけた話も気にして落ち込んでたと思う。それにお爺ちゃんも、そんな事は言わなかった。いつきは変わった。もう学校中のみんなが知ってた。先生全員も。だからこそお爺ちゃんはふざけられたんだろう。ひょっとして僕の思っている以上にスゴイ先生なのかもしれない。
「来週の職員会議で決まると思うから楽しみに待っていなさい。」
三人で職員室を出て校門を出るまでに一体何人が振り向いただろう。僕だって、磯野さんと違う学年、違うクラス、違う席、知り合わなかったら振り向くんだろうか。僕も同じなんだろうか。灰色の喋らない転校生の女の子。
「磯野さんもさ、今度うちに来なよ、スタジオ見せたいんだ。それにピストルズのポスターだって、すっごい貴重なのあるんだ。せいたろうは分かってないんだけど、すっごいんだぜ。」
「僕だって分かってるつもりだけど、巨人軍の選手のサインとかの方がすごいと思うんだけどなぁ。」
ささいな会話をしながら3人で帰るあぜ道。僕は話しながら小石を蹴っている。水田の水路にまた入ってしまう。次の石を見つけて話しながら蹴りながら進む。頭の中は、ずっと磯野さんのこと。
「じゃぁ、月曜日な。」
「うん、ばいばい。」
磯野さんは相変わらずおじぎでいつきと別れる。