がんばっていきまっしょい
Story/あらすじ
はじめに
第一艇
第二艇
第三艇
第四艇
特別艇
第五艇
第六艇
第七艇
第八艇
第九艇
最終艇
第八艇
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   朗報はすぐに大阪にも届いた。ちょうど悦子は三郎と公園の池でボートに乗っていた。悦子がケータイに出ると仁美のはずんだ声が聞こえた。「大切な人のとびきり幸せな顔、見れるいうんはええもんやね」。いつもは厳しいコーチの仁美が涙ぐんでいる。ハッとなった悦子は三郎の手をとると「もう時間ない、はよう行こう!」とはじかれたように駆けだした。

 悦子は走りながら事情を説明した。2人がアパートに着くと小百合がいた。「ごめん。夢、諦めたくないんよ」「わかっとる。お前らしい」。小百合は三郎に優しくされたら夢がくじけそうだったから、あえて突き放すような対応をしたのだ。「あんたは頑張っとる?でっかい男になって自慢させて」。涙をぬぐい微笑む小百合と、何も言えない三郎。そんな2人を遠巻きに見つめていた悦子は、切なげに目を伏せた。ホテルへの帰り道、三郎は悦子に感謝した。「いつか俺も。自分の進む道を見つけたらあいつのことを迎えに行く」悦子は三郎への思いをぐっとこらえて明るくふるまった。

 それでも1人きりになると切なかった。ひざを抱えて涙をぬぐっていると、浩之が青いジャージを投げつけてきた。「明日早いぞ。はよう戻れ」。泣いている理由をたずねない優しさが悦子はうれしかった。「これ、海の匂いするね。早く帰りたい」。さすがの悦子もこの時ばかりはしんみりした。それでもタコ焼きのヤケ食いで立ち直ったのは悦子らしかった。


 修学旅行から帰った悦子たちはこれまでにも増してトレーニングに励んだ。もう1人、三郎も別人のように真剣にボートに取り組みだした。涙も悔しさも次のレースのガソリンになった。やがてオフシーズンの冬を越えて、最後の1年がめぐってきた。琵琶湖行きをかけた3年生の夏。予選レースの行われるダム湖へ向かうバスの中、悦子たちは豆だらけになった手の平を見せあった。3年間の集大成、全国行きをかけたレースが、今まさに始まろうとしていた。
 
 
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