第九章 〜スピーク〜
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「これ見て!俺が尊敬してるセックスピストルズってバンドが特集されてんだ。これ貸すから読んでみてよ、読み終わったら俺に返してくれれば戻しておくからさ。すんげーの、都会から来たから、もしかしたらパンクって知ってる?しがらみなんか無くてさ、今までの価値観なんて全部壊す音楽なんだ。自由なんだよ。パンクって。今の流行なんかスーツ着て女の子にキャーキャー言われてるけど、そんなのは音楽じゃないって思うんだよ。
俺はさ、こんな音楽やりたいんだ。いや、パンクをやろうって訳じゃないんだ。今までのしがらみを覆すような音楽をやりたい。言いたいこと言って、したいようにする。それで東京でせいたろうと一緒にバンドやりたいんだ。こんな平凡っぽく見えるけど、今の俺を作ったのはこいつ、せいたろうなんだ。俺がベース弾いて、せいたろうがギターボーカル!今は二人しかいないけど、近いうちにドラムとかサブギターとか見つけて、まずは来年の文化祭を目指そうとしてるところ。」
「何言ってんだよ、だから何度も言うけど、僕なんかにバンドとか、ギターボーカルなんか無理だって言ってるだろ、それに・・・」
「ってことでさ、今度ピストルズのカセット持ってくるよ。カセットデッキ持ってる?」
僕といつきが話していると、磯野さんがバッグから小さなメモ帳と鉛筆を取り出して、何か書いている。僕らがその様子に気付くと、こっちへ向けた。綺麗な細い字だった。