第九章 〜スピーク〜
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「あっ、もう時間だ、じゃぁ俺いくわ、今日どうする?どっか遊びいく?」
「・・・そうだ!放課後!いつき暇でしょ?僕さ、磯野さんに学校案内するんだけど、一緒に来てよ!二人だけなんて余計に話せなくなっちゃうしさ、それにいつきも音楽の話とかしたいでしょ?」
「おぉ、いいなそれ!行く行く!じゃぁ掃除終わったら、すぐに来るよ。」
良かった。いつきが一緒なら心強い、それに学校のことも方舟のこともいつきが一緒ならなんでも話してくれるし・・・。教室へ入るとやっぱり磯野さんは一人座っていた。風が相変わらずカーテンを揺らしているけど、磯野さんの顔は見えない。でもとても綺麗な灰色に見えて、僕はしばらく立ち尽くしていた。
6限の授業の先生が教室へ入ってくる。怖いぐらいに皆、静かだった。さすがにもう皆振り返ることはなかった。でも見ないようにしても、何度も隣りの磯野さんを見てしまっている僕がいた。先生が教科書を手にして言った。
「野崎、磯野さんに教科書をみせてやれ。来週まで教科書が届かないから今週は一緒に受けるんだ。いいな。では、今日は62ページからだな。まずは・・・・」
なんだって?教科書を見せる?一気に手のひらに汗が吹き出てきた。教科書の62ページだったっけ・・・?なにをどうすればいいんだ?僕の人生の中で女子に教科書を見せてあげたことはない。しかも磯野さんだ。心臓が飛び出るくらい緊張しているけど、授業は進んでいく。やるしかない、いつきが言うように何も考えるな。