第九章 〜スピーク〜
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「磯野さんって、都会の町から来たんだよね?それじゃこんな町、ど田舎に見えるでしょ、ははは。この町にあるのは工場、あっ、あだ名があってさ、「方舟」って言うんだ。ノアの方舟みたいに見えるからなんだけど。それにさ、面白いのがこの町では方舟にアダムとイブが乗ってたって話があるんだよ。なんでかって言うのは・・・長くなるから、また今度話すよ。
あ、あとさ、音楽って好き?今流行ってるグループサウンドじゃなくて、外国のやつ。俺はさ、セックスピストルズってバンドが大好きでさぁ・・・・」
という具合でずっと話しかけてた。でも、磯野さんはずっと黙っていた。
僕は二人の真ん中でいつきが話しかけるたんびに、磯野さんを見て、またいつきを見て、の繰り返し。
「よし、ついた。ここが音楽室。お邪魔しまーす、おっ、ちょうど誰もいない、ちょっと待ってて!」
「お、おぃ、どこ行くんだよ」
「ちょっと取ってくるから待ってて!」
「何をとりにいくんだよ、もう次行こうよ」
いつきが奥の準備室へ入ってすぐに走って戻ってきた。持っていたのは、ボロボロになった音楽雑誌で表紙にはセックスピストルズが載っていた。