第九章 〜スピーク〜
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第九章 〜スピーク〜
5限目のホームルームは本当に静かだった。あれだけ楽しみにしていた転校生なのに、磯野かんなさんが登場してから、クラスの静けさはずっと続いていた。班を決めたり、委員会には夏休み明けに入ろうとか色々と決めていったけど、全員が上の空で、何回も磯野さんを見ては目をそらすという繰り返しだった。
磯野さんは姿勢がよくて、手をヒザの上へ乗せて動かない。長袖のシャツのせいか、今の空の色がそうなのか、もう暑くて汗をかく日が続いているのに、夏が近づいている気がしなかった。
「・・・ざき、・・・聞・・・のか?・・ざき、・・・ざき!」
気付くと僕が呼ばれていた。
「は、はいっ、」
「分かったな。同じ班で隣り同士なんだ。放課後、学校を案内してあげなさい。」
「はいっ」
「では、続けて・・・この学校の校歌を紹介しよう、生徒手帳の2ページ目を開いて下さい・・・」
おじいちゃんが校歌の歌詞について説明しはじめた。・・・でもなんて言った?僕が案内する?僕が?なんで?頭の中はまたグルグルと色んな思いがめぐってパンクしそうになっている。いつきの件にしても、今回も。なんで僕ばっかりこんな目に合わないといけないんだ。いつきのあの日以来、僕の今までの平穏な日々が壊れていく・・・なんで僕なんだよ・・・その後は、何を決めていたのか何を説明していたのか、全く覚えていない。
ホームルームが終わって6限目までの少しの間、1組はもちろん、1年生、3年生も数人、教室を見に来ていた。でも、皆静かにしていた。秀才グループの女子が何人か磯野さんに話しかけているのを見かけたけど、反応は無かった。少しうなずくくらいだった。皆、灰色の転校生にどう接していいか分からずにいたんだ。僕はというと、一番何をしていいか分からずに混乱していたと思う。そんな様子に気付いたのはやっぱりいつきだった。教科書もおかれていない机をジッと見ているといつきが肩を叩く。