第九章 〜スピーク〜
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「あの・・・・教科書・・・今ここやってるって・・・見える?」
机の端に教科書を置いても磯野さんに反応は無い・・・見える訳ないだろ、バカ!なにやってんだ。心の中で自分と闘いながら、いつきだったら何てするかを考えながら、机をゆっくりと磯野さんの机とくっつける。そうだ、これでとりあえずは教科書を見せれる。あとは・・・あとは?なんだ?先生が黒板に次々と何かを書いては消していくけど、僕は何も頭に入ってこない。ただ、次のページに行く時を聞き逃さないように、それだけに集中していた。
教科書の磯野さんの席のページに行く時に少しだけノートが見えた。あっ、普通に女の子の字だ。それに僕よりとても綺麗な文字を書いてた。そう考えると同時に、なんだか緊張してきていた。人生の中で女子とこんなに近づいたことが無かったから。磯野さんは黙々とノートに書いていく。同じHBの鉛筆なのに、僕のは太くて磯野さんの文字は細くてとても綺麗だ。先生が文字の下を赤いチョークでなぞる。
「ここは、テストにも出るかもしれないから、皆覚えておくんだ。そしてこの数式を・・・・」
磯野さんが鉛筆を置いて筆箱から赤鉛筆を取り出そうと手を伸ばした。何気なく見ていると、袖口が伸びて手首が見える。すると、左手首に線が見えた。あとから思っても、僕がなぜあんな事を言ったのか分からない。いつきは方舟が起こしたことって言うけど僕にはわからない。もしもこの言葉が無かったら、僕がこんな事を言わなかったら・・・僕らは・・・
「あっ・・・流れ星・・・」