第二章 〜「せ」と「い」〜
P.8
その日、僕は初めてノアの方舟に生まれて初めて入ることになった。そして一生を変える一つ目の出会いをする。
いつきの家までは学校から15分くらい。いくつかの家も近くにあるけど、少しの距離がある。方舟の周りは、お堀のように畑で囲まれている。何かの遺跡のようになってる。きっと空から見ると、何かに隔離されてるように見えると思う、でもこの町の住民は皆それが子どもの頃からの景色だから何も思わない。
朝の9時前という時間だからか、着くまでの道では誰もすれ違わなかった。それでも人目につかないように気をつけて歩いて向かった。学生服を着てるし、学校とは正反対の方向へ向かっているんだから。
あと、敷地はとにかく広かった。来てみてわかった事だけど、端から端までが見えないくらい。本当にノアが用意した船のようだった。煙が上を雲のように流れている。町中に響いていた工場の機械音もここに来ると地球が鳴いているようにも聴こえる。まるで意思があるように。
教えてもらった入り口は以外にも警備員専用のゲートだった。父さんたちが入る一般ゲートは正面にあるけど、警備員ゲートは真横にある。正面ゲートにももちろん、警備員がいるんだけど、専用のゲートが横にあるなんてしらなかった。その時、初めて分かったことだけど、この年まで方舟に来たことが無かった。そっか、あることが当たり前になると、考えもしないし、くることも無いのか。