第二章 〜「せ」と「い」〜
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先を走るいつきからは今日も甘いキンモクセイのようないい匂いがする。何でも都会の学校で流行っている何とかと言うシャンプーを使っているからみたい。走りながらヘルメットが首を閉めて苦しかった。
いつきは僕の同級生。上級生から後輩まで、いや、この町でいつきのことを知らないやつはいない。だって、いつきはノアの方舟の工場長の一人息子だ。なんでも、この工場長になってから、工場に方舟という名前がついたらしい。そしてそれまでの外壁を塗り替え、全て白にしたそうだ。でも、アダムとイブが乗り込んだっていう話はいつからあったのか、その理由はまだ知らなかった。
いつきの服はいつも新しい。ジャージも少しの傷ですぐ買い替える。不良の仲間入りはしなく、むしろ大人しい性格。皆に好かれている人間の見本みたいなやつ。だった。本当はみんな、いつきと仲良くすれば方舟で就職出来ていい暮らしが出来る。そんなことを考えてた。でも、それは僕と知り合う前までのいつき。