小説

著:やまももけんじ

『 方舟がキミを運ぶね 』

第二章 「せ」と「い」

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第二章 〜「せ」と「い」〜
P.4 

いつきと親友になったのはつい最近、高校1年生の冬だった。寒い日だった。まさかこの日から始まるなんて思ってもみなかった。いつもの通り、ヘルメットをかぶって学校へ着くと、いつきが泣きそうな、ふれたら破裂するんじゃないかって顔をして校門で一人立ってた。僕を見るんでもなく、一人たたずんでた。いつきの存在はもちろん知ってたけど、小学校から今のいままで一度も話した事は無かった。というか話す理由なんか僕には無いし、小さい時から自分とは世界が違うと思ってた。僕は私服なんかほとんど持っていないし、家では学校のジャージを着ている。お洒落な服を持ってたとしても、見せる人もいないし、しょうがなかった。父さんは昔からいつきとは仲良くしろとうるさく言っていたけど。

その日は不思議と他に誰も歩いていなかった。下級生も上級生も誰も。一人でも他にいればきっとその人が話しかけていただろう。工場長の一人息子が「僕は今とても困っています」って顔をして立ってるんだから。

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