第二章 〜「せ」と「い」〜
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「じゃ、じゃぁさ、僕の体育着貸すよ。どうせ体育なんかいつも2だし、一回くらい見学したってなんにも変わらないから」
「・・・・本当に?」
いつきの目が今度はビー玉のように、幼稚園の子どものような目になった。
「でもダメだ、体育着には名前が入ってる。誰かに借りたって解ったら余計に笑われ者だ」
またあの目をしながらいつきは今にも飛び降りそうな、まるで霜柱のような目をしてうつむく。
「・・・・うーん、じゃぁさ、僕が君の家まで行って体育着持ってこようか。どうせ体育は午後だし、僕は寝坊ってことにすればいい。そんな顔して授業うけたら先生が余計に心配して家に連絡しちゃうよ。どうせ授業はつまらないし、テストも終わったし単位なんか僕は関係ないからさ」
「・・・・・・ほんと?」
いつきの顔はまだ下を向いている。
「でも、君も僕が工場長の息子だからこうやって優しくするんだろ、わかったよ、いずれ父さんに親友だって紹介するよ」
「な、何言ってるんだよ、そんなことしないでいいよ。将来なんか解らないし方舟に就職なんか君にどうにかしてもらわなくても出来るよ。」
少し言い過ぎた感じはしたけどそれが本音だった。でもいつきの目を見て、その時初めて自分が同級生たちにどう思われているのか、知っているんだって解った。そうか、いつきは僕よりある意味辛い生き方をしているのかもなって考え始めたんだ。少し黙っているといつきが少しだけ顔を上げて話し始めた。