小説

著:やまももけんじ

『 方舟がキミを運ぶね 』

第十二章  i so no

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第十二章 〜 i so no 〜
P.8 

「しかし、せいたろうが学校の案内をするなんて凄いじゃないか。どうだった?転校生なんだし、最初は不安なことだらけだろう。仲良くしてあげるんだぞ。明日から、職場で胸を張って磯野さんに話せるな。」

「そんなんじゃないよ・・・そんなんじゃない・・・」

「せいたろう、どんな娘なの?その子?あっ、そうそう、せいたろうったら、自分の傘貸してあげたのよ、でも穴が開いてる古いの貸しちゃったみたいなの。明日、磯野さんに謝っておいてくれる?帰ってきてビックリしただろうし、処分してもらってかまわないって伝えて下さいね。」

「そうなのか、せいたろう。お前もちゃんとする時はちゃんとするんだな、はっはっは。わかった、伝えておくよ。しかし、偶然もあるんだな。まるで俺のところにも転校生がきたみたいだよ。そういえば俺が中学校の時かな、同じように転校生が・・・」

父さんと母さんがそれから何を話していたか、よく覚えていない。僕はただ、磯野さんのことしか考えていなかった。灰色の髪。喋れないこと。手のアト。あの顔。そしてバンドをやると書いてあったあのメモ。明日から一緒に何を話せばいいんだ。僕は何をしたいんだ。

部屋に戻って窓を開ける。明るい星がいくつか見える。山村によくある夏のにわか雨のおかげで、星が綺麗に光ってる。あれは確か夏の大三角とか言ったっけ。夜になると、方舟も眠る。山に囲まれたこの町では天の川も見れるし、流れ星だってしょっちゅう見つけることが出来る。そういえば小さい頃に父さんと見た星空でも流れ星を見たっけ。なんで僕は磯野さんにあんなこと言っちゃったんだろう。僕はいったい何がしたいんだ。

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