第十二章 〜 i so no 〜
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結局、自分がどうしたいのか、磯野さんの気持ちがなんなのか、全部が解決しないまま、余計に分からなくなってしまった。台所で母さんの鼻歌が聴こえる。決してうまくない、母さんの声。僕が唄を歌う?僕がギターを弾く?そんなの出来る訳ない。音楽の授業なんて一度も楽しいと思ったことが無いし、成績だっていつも体育と同じくらい悪い。洗面所に行って鏡を見ると、ヘルメットをかぶったままだって気付いた。自分の顔を見てみる。こいつがギターを弾きながら歌う?今までの人生で自分が主人公になるなんて思ったことは無い。今までの人生で何かに誘われたことも無い。・・・バンド?友達と一緒に好きなことをしたら楽しいと思う。まして、いつきと磯野さんと一緒・・・僕には何がある?・・・・何もないじゃないか。臆病で得意なことは何も無い。勉強が出来る訳でも無いし、運動が出来る訳でもない。クラスで目立つようなこともないし、ただ毎日を過ごして生きてきた17歳のさえない男。
・・・出来る訳ないよ・・・
目を開けると、すっかり空は濃い藍色に変わっていて、雨も上がっていた。あれから布団で眠ってしまっていたみたい。下から母さんの呼ぶ声が聞こえる。
階段を降りていくと父さんも帰ってきていた。