第十二章 〜 i so no 〜
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第十二章 〜 i so no 〜
あのあと、雨はますます強くなって、景色を包んだ。
蜃気楼の中へ消えていくような磯野さんを見送っていると、まるで昔話の中に入り込んだようでしばらく動くことが出来なかった。上の空のまま家に戻ると、お母さんが玄関で待っていた。
「せいたろう、あの娘、彼女なの?ちゃんと言わなきゃ駄目じゃない!よく見えなかったけど、どなたの娘さんなの?」
「・・・・・」
「せいたろう!どうしたの?ちゃんと言って欲しかったわよ、傘だって、もっとしっかりしたの渡したかったのに」
「・・・いいんだ」
「なに?ケンカでもしたの?分かるわよ、お父さんとお母さんにだって色んなことあったもの。でもね、ちゃんと・・・」
「いいからほっといてよ!!電話使うから台所いて!」
「あの娘にかけるの?ちゃんと仲直りしないと駄目よ、いつだってあんたは・・」
「彼女なんかじゃないよ!あの娘は転校生なんだ!今日来たばっかで僕が学校案内して送ってきただけだよ!電話使うから、台所行っててよ!終わったら言うから台所行ってて!」
ビショビショのままだったし、頭の中もまだ整理が出来てなかった。だけど、とにかくこれがウソじゃないってこと、さっきまでの出来事が夢じゃないことを確かめたくて電話をかけてた。今思うと連絡網の時以外で初めて自分から人に電話をかけた時でもあった。