第十一章 〜花柄で骨の折れた〜
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「あの・・・授業中は、本当にごめんなさい、そんなつもりじゃなかったんだ。困ったことがあったら、何でも言って下さい・・・僕よりいつきの方がいいかも知れないけど・・・
あの・・・いつきってさ、本当にいい友達なんだ。少し話したけど・・・工場、そう!あの工場なんだけど、ノアの方舟みたいだから、皆は方舟って呼んでるんだ、いつきはその工場長の息子で・・・少し変なところもあるけど、今のいつきは何でも話せば相談に乗ってくれるから・・・だから・・・・あの、磯野さんのお父さんも工場で働くんだよね?だったら、お父さんも工場長の息子と仲良くなったら助かるだろうし・・・だから・・・そ、それに、部活とか、もう決めた?僕らみたいに案外、部活に入ってない人も結構いるんだ。だから、あの・・・」
学校のホームルーム以外で同級生の女の子と話したことがない僕には、もう限界だった。頭の中では、もう一人の自分がずっと喋っている。磯野さんが何部に入ろうと僕には関係ないじゃないか、お父さんが工場で働くことを僕が知ってるなんておかしいじゃないか、雨が降ってるのに何してんだ、早く帰らないと・・・
「い、いつきってさ、本気で世界を変えるようなバンド作りたがってるんだ。おかしいよね。こんな町でさ。で、僕にはギター弾いて唄を歌えって言うんだ。こんな僕に出来る訳ないのに、変わってるよね。そうだ、ドラムともう一人ギター探してるんだって。磯野さんも誘われるよきっと。はは・・・はは・・・」
その時、鏡があって、自分の顔を見ることが出来たなら、それも一生忘れられない顔だったと思う。引きつっていて、普段笑わない顔をしていたから、口の横の筋肉が痛くてしょうがなかった。もう駄目だ。