小説

著:やまももけんじ

『 方舟がキミを運ぶね 』

第十一章 花柄で骨の折れた

目次はこちら

第十一章 〜花柄で骨の折れた〜
P.2 

駆け寄って、歩き始める。僕ら二人とも目が泳いでいた。お互い何も言わないけど、あの瞬間が頭から、目から離れなかった。段々と強くなる雨なのに僕ら三人は、黙ったまま歩いていく。走りもせずに歩いていた。畑にたまった水溜りに雨音が響く。方舟が蜃気楼のように遠くにあるようにボンヤリと見える。
無言のまま、いつき、磯野さん、僕の順番で歩く。3人とも下を向いて、水溜りなんか気にしないでただ歩く。ヘルメットのつばから雨粒が落ちてく。磯野さんのヘルメットはまだ新しくて水があっという間に滑ってく。方舟までの道のりが今日はすごく短く感じた。

「・・・ねぇ、いつき、着いたよ。」

「・・・・」

「・・・・いつきったら!家ついたってば!」

「・・・・わ、分かってるよ!考えごとしてただけだよ!じゃぁ、また明日な。せいたろう、磯野さん、また明日。ばいばい。」

いつきが方舟へ続く道へ曲がって手を振りながら警備員ゲートへと走っていった。僕らは中へ入っていくまで見送った。そして雨が降る中、取り残された。どうする・・・何か話さないと・・・
方舟に乗り込んだあの時も心臓が止まりそうなくらいドキドキしたけど、今のドキドキとは違う。あぜ道の水溜りに波紋が何回も生まれては新しくなっていった。下を向きながら初めて、自分から話しかけた。

次のページ

ページ: 1 2 3 4 5 6 7 8