第十一章 〜花柄で骨の折れた〜
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「・・・僕の・・・僕の家、山の方なんだ。磯野さん家ってまだこっち?」
小さくうなずく。
「そ、そっか。じゃぁ・・・早く行こう。風邪引いたらマズイし。」
少し早足になっているのに気付いたけど、今さらゆっくりなんて出来ない。女の子と一緒に帰る、自分の人生の中で体験するなんて信じられなかった。今、僕は女の子と一緒に帰ってる・・・しかも、磯野さんと・・・・
いつきが言っていたように、考えないで話すんだ。顔は見えないし、何を緊張してるんだ。明日からも教科書見せないといけないし・・・・なに言ってんだ。まずは謝らないと駄目だ。謝らないと!
「・・・あのさ・・・あの・・・ごめんなさい・・・授業中、変なこと言ったりして・・・あのね、違うんだ、自分でも何でそんなこと言ったのか分からないんだ。だから、気にしないで・・・あの・・・」
後ろを振り返ることは出来なかった。少し離れて着いてきている足音だけが、はっきりと耳に響いていた。僕の足音よりずっと小さな足音だけど、方舟の音も雨音も、気にならなかった。なぜか足音はハッキリ聞こえてた。
自分がいつきだったら、何を話すんだろうって考えてたせいだったのか、僕にはいつきのこと以外に人に話すことなんて無いせいなのか分からない。外の雨音より大きな音で僕の心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかって考えて、余計にドキドキして、結局、口まで出掛かるのに何も話せなくて、僕の家が近づいてくる。
このまま、帰ったら、明日からどうなるんだ。話さなくちゃ駄目だ。僕から離さなくちゃ駄目だ。でも何て話しかければいいんだ。何を話せばいいんだ。
「・・・あの・・・」
勇気を出して立ち止まった。振り向いて磯野さんを見る。目の前にいる姿は見えていて、顔はお互い向いているのに、僕の目は横を見ていた。