小説

著:やまももけんじ

『 方舟がキミを運ぶね 』

第七章 フルテン

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第七章 〜フルテン〜
P.7 

「よし・・・改めて皆に話がある。今日来る転校生だが、女の子だ。都合で午後からの出席になる、という訳で5限目の現代文はホームルームに変わることになった。

それと・・・・さっきも言ったが、私の判断で今日は皆に話そうと決めたことがある。貴重な1限目の時間をさいてもらっているので簡単に言う。

皆はさっき、私と目があった時、何を思った?あれだけ騒いでいたのに今はこれだけ静かになれるんだから不思議に思わないか?人は言葉という物を持っているな。でもそれは重要じゃない。現代文を教える私が言うことでは無いが、言葉は大切ではあるが、時には必要では無いと考えている。人はね、何かを感じる心という物を持っているんだ。心で思ったことは人に伝えることが出来る。それは言葉よりもずっと伝わりやすいんだ。考えると難しいと思うんだがね。そして本題だ。

今日来るクラスメイトは「磯野かんな」さんと言う。とてもいい名前だな。磯野さんだが・・・話すことが出来ないんだ。今は。の話なんだがな。とても大切なことだが、「今は、話せない」。人と話すことが出来ないんだ。

だが、何をしたらいいか何をするべきかは教えてもらってする事ではない。君たちが一人一人考えて接して欲しい。これを説明するのは私の個人的な意思で話している。先生たちの中には話すべきでは無いと思っている先生もいる。それも分かるが、今日は私の意志で事前に皆に話すことにした。だから、一人一人午後までに考えて欲しい。分かったね。では、今日の日直。」

「あっ、・・・きりーつ・・・」

お爺ちゃんが出て行く時、扉が開くと、1限の先生が待っていた。明らかに不服そうな顔をしている。呆れているような顔にも見えた。事前に話したことがいけないのかお爺ちゃんの考えがいけないのか分からないけど、少なくても、このクラスの全員が何かを思っていたのは確かだった。でもお爺ちゃんの考えが分かるのは誰もいなかったのかも知れない。僕を含めて。一体どういうことだったんだろう。

第七章 音源 /「wait for サイレンス」を聴く


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