第七章 〜フルテン〜
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上履きに履き替えながらいつきと話していると、やっぱり皆がこっちを見てくる。いつきには挨拶をしてくるけど僕には誰も何も言ってくれない。あれから僕に対する周りの反応はちょっと変わっていた。いつきには話していないけど。僕といつきが仲良くなって、クラスメイトはもちろん、学校から僕は無視をされていた。イジメられている訳じゃない。・・・と思う。前からも友達という友達はいなかった。今もクラスメイトに話しかければ、話してはくれるけど、あっちから僕に話しかけてくることは無くなった。いつきのせいとは一度も思わなかったけど、いつきが理由という事は分かってた。僕も皆も。
それでも特に気にすることは無かった。感情というか「心」が足りないのか分からないけど、毎日授業を受けて、家に帰って家族とご飯を食べて夜に寝る。そして授業を受けてまた帰る。その繰り返しに何の感情も持っていなかった。ただ、卒業とともに、方舟で働いて、親を安心させられればいいな。くらいにしか思っていない人生だった。だからむしろ、たった一人だけど、いつきと言う親友が出来た方が僕の毎日はとても楽しいものに変わっていた。周りはどう思っていても僕はそうだった。
クラスへ着くと、お爺ちゃんがもう教卓で立っていた。今日の1限は現代文じゃないのになんでだろう。お爺ちゃんというのはこのクラスの担任の先生のあだ名。僕が高校入学の時に赴任してきた先生。担当は現代文。なんでも今年、定年退職するんだけど、最後の2年間に、この高校を選んで赴任してきたという変わり者。方舟とともに発展したこの町に赴任してくる先生は大抵、嫌な顔をしている。それはそうだ。町には方舟以外、何も無いし、デパートだって、映画だって、バスと電車で一日がかりで行かなければまず無理だ。もし家族がいても、働く場所なんか方舟以外なにも無い。それは先生にとって嫌だって子どもでも知ってる。
でもこの先生はこの学校を選んでやってきた。都会の方でずっと先生をしてきたけど、この町のウワサを聞いて、教員最後の場所に選んだんだそう。赴任の挨拶で知ったけど、この町やこの学校は都会でも少し有名らしい。でもそれは決して住みやすい場所なんかじゃなくて、辺境の地という意味で。
先生、いや、お爺ちゃんはスラッとしていて白髪の綺麗な髪。でも外国人のように品があった。茶色のスーツがとてもよく似合って怒ったのを見たことが無い先生。誰がつけたのか知らないけど、いつのまにかあだ名が「おじいちゃん」になってた。ピッタリのあだ名。奥さんは若い時に亡くして、息子が一人いるって言ってたっけ。