第七章 〜フルテン〜
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「おはよう。野崎、席につきなさい。」
一人一人教室へ入ってくるクラスメイトに席に着くように話しかける。皆不思議そうにしている。やっぱり1限は現代文じゃない。何かあったんだろうか?席へ着こうとして驚いた。僕の座席は教室の一番後ろの窓に近い席なのに、隣りに真新しい机が用意されていた。僕の隣り?僕の隣りだって?窓際の一番後ろの座席は空いていていつも方舟の煙を見ながら空を見るのが一番、何より好きだったのに。真新しい机を何度も見ながら教科書をしまっていると、ようやくクラスメイト全員そろったようだった。お爺ちゃんがようやく話し始める。
「今日の1限目は地理だったが、少しだけ時間をもらったんだ。皆に話しておくことがあるのでね。職員会議でも、賛成、反対に分かれたが、私のクラスなので、私の意志で、話しておこうと決めた。これは皆を信頼しているからだ。よく聞いて欲しい。」
騒がしい女子たちやサッカー部の男子は話なんか聞いちゃいなかった。新しい机が用意されていることで、もう転校生がくることを知っていたから。「せんせー!女子ですか男子ですかー!」とか「どうするよ、可愛かったらさぁ」とか「もう来てるんですか」とか、この騒がしさは本当に凄かった。
「静かにしなさい、来るのは女の子だ。それと・・・」
それを聞いて、ますますクラス中が盛り上がった。「聞いたかよ、女子だってさ!」「どんな子なんですかー」女子も男子も一斉に話し始める。その気持ちは少しだけ分かった。この町に転校生がくるなんてこと、それは僕が生まれてから初めてだったし、皆もそうだった。いつきが言ってたように、この町より田舎の町なんかまず想像出来ない。クラスのかっこいいヤツ、可愛い子のオシャレと言っても、都会へ遊びに行った時に買った服を1着か2着持っているくらいで、どんな人でも家でも学校のジャージを着て過ごしているというセンスの持ち主しかいなかった。
そんな町に転校生。
皆それぞれに思った事を口にしてお爺ちゃんのことは気にしていない。僕も少し楽しみな気持ちはあったけど、その時もぼんやり空を見ていた。だんだんと暗くなって風がまた強くなってきている。帰りは雨かもしれない。教室の騒がしさが続く中、一人一人だんだんと黙って言った。なぜならお爺ちゃんが気付くまで、一人一人の顔をジッと見ていたから。ほんの一瞬の人もいれば、何十秒も見ている人もいる。あれだけ騒いでいた女子も男子も自分が見られると最初はふざけているのに喋らなくなっている。僕は窓際だから最後までその様子を見ることが出来た。トビラのほうから一人一人が黙っていく。何をしている訳でもなくて、お爺ちゃんと目があって、何も話さずに一人一人黙ってく。
段々と僕の順番が近づく。目が合うことが怖くて下を向いてたけど、少しだけ前を見ると、お爺ちゃんと目があった。僕の考えていることが全て見抜かれたようで、目をそらすことが出来なかった。でも、すぐにお爺ちゃんは笑った。笑った?ふっと気持ちが楽になって、瞬きをすると、もう僕を見ていなかった。
教室から声が消えた。