第七章 〜フルテン〜
P.3
あの日以来、屋上の貯水タンクの下は、僕らの指定席になってた。もともと、人気の無い日当たりの悪い場所だったし、僕らにとって、忘れられない場所になったから。お弁当を食べ終えて、バッグに戻していると、いつきが話しかけてくる。相変わらず、いつも、毎回、絶対同じ言葉で。
「でさ、考え決まったか?バンドの話。」
「・・・・またその話?やらないって言ってるだろ?やっぱり僕よりも軽音部とかの人誘ったらいいに決まってるよ。ギターも弾けないし、歌だって僕には無理に決まってるじゃんか。」
「だからさぁ、いつも言ってるだろ?そんなの無理だって。俺がいくら何言ってもこの町の奴らが本音言うわけ無いだろ?それにさ、せいたろうがギター持って無くても大丈夫だよ。軽音部のヤツ等貸してくれるだろ?」
「だって、考えてもみてよ、二人でバンド?そんなの恥ずかしいよ。ドラムだっていないんだよ?まずそこからおかしいと思わない?それに貸してもらったピストルズも中々聴くチャンス無いんだ。カセットデッキは父さんが夜にラジオ聴いたりするから難しいんだ。しかもウルサイ感じだし、父さんに前怒られたんだ。」
「わかってないなぁ、セックスピストルズがどんな凄いことしたかって皆何も分かっちゃいないんだ。言ったろ?まずさ・・・」
最近は、そんなやり取りをしながら毎日二人で過ごしている。仲良くなって、いつきの家には何度か遊びに行った。ただ、遊びに行く時も、僕はあえて、警備員用のゲートからあのやり方で入っている。今では警備員さんも慣れた様子で僕を見ると挨拶をしてきてくれる。何をする訳でもないけど、いつきの部屋でベースの演奏をボーっと聴くのがなんとなく好きだった。あいにくうまいのか下手なのかなんか分からないけど。いつきの父さんには入り込んだ日に声を聞いただけでまだ会っていない。いや、会いたくは無い。バンド仲間なんて紹介されたら、とんでも無いことになりそうな気がして今でも家に行く時は内心ドキドキしてる。でも幸いなことに、いつきの父さんはいつもいない。工場長として朝早くから夜遅くまで働きっぱなしだ。