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artist : RICHARD HELL & THE VOIDOIDS
title : 『 BLANK GENERATION 』
release : 1977年9月
label : SIRE RECORDS
tracks ( cd ) : (1)LOVE COMES IN SPURTS (2)LIARS BEWARE (3)NEW PLEASURE (4)BETRAYAL TAKES TWO (5)DOWN AT THE ROCK AND ROLL CLUB (Alternate Version) (6)WHO SAYS? (7)BLANK GENERATION (8)WALKING ON THE WATER (9)THE PLAN (10)ANOTHER WORLD
bonus tracks ( cd ) : (11)I'M YOUR MAN (12)ALL THE WAY
tracks ( analog ) : side A...(1)〜(5) / side B...(6)〜(10)
members : RICHARD HELL,bass,vocals ; ROBERT QUINE,guitars,background vocals ; IVAN JULIAN,guitars,background vocals ; MARC BELL,drums.
producer : RICHARD GOTTEHRER & RICHARD HELL
arranger : RICHARD HELL,ROBERT QUINE & THE VOIDOIDS
related website : 『 Richard Hell Official website 』(公式サイト)、『 Robert Quine 』(ファン・サイト?)




 1960年代中頃のある日、デラウェアにある少年院を出所して数週間しかたっていない2人のティーネイジャー〜RICHARD MEYERS と TOM MILLER が、アラバマの野原に火を放ったかどで逮捕された。その1人〜後にトム・ヴァーレインを名乗ることになる〜が言う「暖まりたかったのさ」。もう1人〜後にリチャード・ヘルを名乗ることになる〜が言う「原っぱが燃えるのを見たかったのさ」。5年後のニュー・ヨーク、そこで彼らは、かつて誰も聞いたことのない名前のザ・ネオン・ボーイズというバンドを始める。

 JOHN PICCARELLA氏の英文ライナーに拠れば、ヘルとヴァーレインはこうして動き出したのだが、その後彼らは袂を分かち、紆余曲折を経てヘルはヴォイドイヅを結成する。辞書やネットで調べてもこの“VOIDOID”の意味は解からなかったのだが、同ライナーに拠れば、ヘルが書いた短編小説のタイトルから採ったのだそうだ。

 また彼は、マルコム・マクラレンにセックス・ピストルズのヴォーカルとして声をかけられたこともあるという。それは実現しなかったが、ヘルやヴァーレイン、そしてパティー・スミスらが考案したそのファッション、つまり、髪を突き立てたり、破れた服を着たりすることや、シンプルな音楽性はマクラレンによってイギリスに“輸入”され、ロンドン・パンクへと繋がっていった。プロフィール的なことはこれぐらいにして、そろそろ本題へ。


(1)LOVE COMES IN SPURTS  ▲tracks
 何か危険信号が鳴っているような緊急事態めいたイントロでキマリの(1)。ヘナヘナと叫ぶように歌うヘルと、ぶっきらぼうなコーラス。こんなことを言うと、彼らがただの変な奴等のように思われてしまうが、これがまた最高にカッコいいのだ。そこにロバート・クイン(故人)の切れ味鋭いギター・ソロが“ギャギャギャギャ、キュイーーーン”と切り込んでくる瞬間がまた最高だ。ニュー・ヨークのアンダーグラウンドなロック・シーンには、ラウンジ・リザーヅのアート・リンゼイ(初代)やマーク・リーボウ(2代目)、そしてコントーションズのギタリスト達のように、調性やタイミングを意図的に無視、あるいはそのズレ具合をある程度狙った上で仕掛けてくるタイプのギタリストが多く見受けられるが、R & Rとの相性が最もいいのはこのロバート・クインなのではないだろうか。クインは後に、ルー・リード・バンドや、マシュー・スウィートの傑作 『 GIRLFRIEND 』 ほかでプレイし続けている。
 なお、トム・ヴァーレインのギターをフィーチャーしたネオン・ボーイズの「LOVE COMES IN SPURTS」は、1980年シェイク・レコーヅから、ヴォイドイヅの2曲も収録したEPとしてリリースされている模様。


(2)LIARS BEWARE  ▲tracks
 「ガーン、ガーン」という、なんとなく不失者での灰野敬二のギターのような、もしくは“エレクトリック琵琶法師”といった趣のギブソンSGの虚無な響きで始まる(2)。
 その虚無な響きが、痙攣したような単音の連続へと変化、騒々しく屈折感タップリなR & Rへと雪崩れ込み、「ダッダダッダダッ・ダッダッダッ」というリズムでキメてくれる。このキメのリズムが文句無しにカッコいい。また、「アウッアウッアウッアウッアウッアウッアウッアウッ」という犬のようなヘルのヴォーカルもパンクで痛快だ。


(3)NEW PLEASURE  ▲tracks
 妙にペケペケとしたギターと、クネクネとして気持ちの悪いリズムがなぜかいいR & Rの(3)。JOHN PICCARELLA氏のライナーに拠れば、彼らは「VENTILATOR BLUES」(『 EXILE ON MAIN ST. 【メイン・ストリートのならず者】』 に収録)ほか、いくつかのローリング・ストーンズのカヴァーもレパートリーにしていたらしいが、ヘルの歌いっぷり(声ではなく)やギターのフレイズにはうっすらとストーンズの影がチラついているような気がする。


(4)BETRAYAL TAKES TWO  ▲tracks
 スロウでノイジーなワルツの(4)。途中でチンドン屋のような、ちょっとコミカルな雰囲気に変わるが、そこで展開されるギターがエレクトリックでノイジー。その後、元のリズムでも、クイン節全開のギター・ソロが展開される。途中で「ピュウィッ」と鳴るギターか何か(シンセ?)の音が“気持ちワル良い”。
 この曲からチンドン的なヴァースを差し引いてゴスペル風味を加味すると、なんとなくソウル・フラワー・ユニオンの「月が笑う夜に 導師はいない」( 『 エレクトロ・アジール・バップ 』 に収録)っぽくなるような気がする。


(5)DOWN AT THE ROCK AND ROLL CLUB (Alternate Version)  ▲tracks
 “静と動”、“静と騒”、“静と狂”といった対比を見せる、ミドル・テンポのR & R(5)。当時のニュー・ヨーク・パンク・シーンの夜の喧騒を歌ったものらしい。語りっぽいところだったり、街の景色を歌っているところでは静かめなのに対し、クラブの中のことや過激な発言になるところは、ひたすらウルサくヘヴィーに叩きつけてくる。
 なお、この曲はCD化の際に別ヴァージョンに差し替えられている。このレヴューは、そのCD盤の方。


(6)WHO SAYS?  ▲tracks
 テンポ的には前曲と似てはいるが、捻じれ具合が不気味なR & R(6)。ロクシー・ミュージックっぽさを彷彿させる縦刻みのビートで煽った後の「チャチャチャチャチャチャチャチャ」と下降していくフレイズが、人を小馬鹿にしている感じで、とてもユニークだ。なんとなく、あのあのねの「みかんの心ぼし」を思い出してしまった。って、単に「チャチャチャチャチャチャチャチャ」繋がりなだけなのだが。


(7)BLANK GENERATION  ▲tracks
 “空白”であるということが強烈なインパクトを残す、一見矛盾したタイトルを持つ(7)。屈折したファンクのような変則的なフレーズの後、Bm、A、G、F#7(インベーダー・ゲームのBGMのような進行)と下降していくお決まりの哀愁のコード進行で、うらぶれたシャッフルを展開する。タイトル曲だけあってとてもキャッチー。ギター・ソロもツボにハマっている。「ウ〜ウ〜ウ〜ウ〜」というファルセットのコーラスはホノボノとしているが、どこか寂しげだ(最後の「ウィ〜ユゥ〜」という辺りなど特に)。
 僕は前から漠然と、この曲は“自分達の世代の虚しさ”を歌っているとばかり思っていたのだが、歌詞を読んでいくとどうやらそうではないらしく、よく老舗を舞台にした物語などで「“〜の代”であの店はダメになった」というセリフがあるが、この“GENERATION”は正にその“〜の代”だと思うようになった。
 この曲はヘルの誕生に関する話が出てくるのだが、彼の誕生時に医者が“こりゃぁ神が与え給うた残念賞だ!”と叫んでいるくだりを見ると、彼の誕生は歓迎されたものではなかったらしい。よって、それに対する強がりにも似たセリフ

 俺はまだ生まれてもいない時から「ここから出してくれ」って言ってたんだ
 ツキが巡ってきたってなもんサ

でこの曲は始まる。“望まれていようといまいと、俺は自分からこの世界に出て来たんだ”と言いたいわけだ。また、サビというかリフレインの部分では

 俺なんかいないと思ってくれ 好きに生きていくゼ

と言ってのける。要は“アンタ達の家系に俺は必要ないだろ、俺の代はないと思ってくれ”ということを云わんとしているのだ。
 しかし、こんな強がりを言いながらも、“自己の不在感”に苛まれて、心の均衡を失っていく。むしろ、そんな状況だからこそこんな強がりを言わなくてはいられないのかもしれない。そして、そんな心情を歌っているからこそ、“自分達の世代の虚しさ”というある種の普遍性に繋がっているのではないだろうか。


(8)WALKING ON THE WATER  ▲tracks
 CCR(CREEDENCE CLEARWATER REVIVAL)の1stアルバムからのカヴァー(8)。決して後退することなく聴き手にズンズンと迫ってくるような強迫的なリズムは、“カッ”と見開いた三白眼のヘルの鋭い眼差しのよう。そのタンゴ的なアクセントは、ジミ・ヘンの「HOUSE BURNING DOWN」(『 ELECTRIC LADYLAND 』 に収録)やドゥービー・ブラザーズの「LONG TRAIN RUNNIN'」(『 THE CAPTAIN AND ME 』 に収録)の一部分を思わせる。


(9)THE PLAN  ▲tracks
 『 LOADED 』 の頃のヴェルヴェット・アンダーグラウンドようなライトでクリーンなギター・サウンドが印象的な(9)。ギター・ソロは彼らの持ち味を幾分残しつつも、ちょっとメロディアス。全体的にはホノボノと明るい曲なのに、エンディングだけ妙に後味の悪い不吉な終わり方で、それがまた彼ららしい。それはどうやら歌詞を反映してのことのようだ。


(10)ANOTHER WORLD  ▲tracks
 言葉の遊びではなく、文字通り“PUNK FUNK”の(10)。(5)とはまた違った形でというか、より込み入った形で、“静と動”、“静と騒”、“静と狂”といった対比を見せる。同じニュー・ヨークで活躍したのコントーションズのアプローチともまたちょっと違ったクールな演奏をバックに、狂おしいヘルのヴォーカルが暴れまくる。こういったバンドには珍しく、演奏時間は8分強にも及ぶ。


 ここからはCD化の際にプラスされたボーナス・トラック。


(11)I'M YOUR MAN  ▲tracks
 (7)よりは明るくはあるが、どこかうらぶれているシャッフルの(11)。ここでも、朴訥でぶっきらぼうなコーラスがイイ味を出している。2回あるギター・ソロが両方ともいい。
 この曲は第2期ヴォイドイヅ(ドラマーが交替、専任ベイシストが加入)のシングル(プロデュースはニック・ロウ)「KID WITH THE REPLACEABLE HEAD」のB面だった。


(12)ALL THE WAY  ▲tracks
 まずはメロウなクリーン・トーンのエレキ・ギターにヤられる(12)。そのギターと、ヘルの情けなくも健気な唄が、ただただ切ない。ギター・ソロに至っては感涙ものだ。
 僕が物心つくかつかないかといった辺りの頃、何か食べている時、大人達に「おいしい?」と訊かれると「おっつくない(おいしくない)」と答えてそっぽを向くのに、誰も見ていない(と自分で思っている)所では「おっつかったー(おいしかった)」言っていたらしいのだが、この曲はその“「おっつかったー」サイド”なのだなぁ、と感慨深く思ってしまった。
 この曲は、フランク・シナトラ主演の映画 『 THE JOKER IS WILD 【抱擁】』 ('57年)の主題歌で、当時のアカデミー主題歌賞を受賞しているという、フランク・シナトラの代表曲の1つで典型的なラヴ・ソング。サム・クック、ソロモン・バークなどのR & B勢や、ビリー・ホリデイ、ウェス・モンゴメリー、リー・モーガンなどのジャズ勢もカヴァーしている模様。
 また、シナトラ・ナンバーのカヴァーといえば、シド・ヴィシャスの「MY WAY」が思い出されるが、“地獄”と“背徳”がスタンダードでかしこまったイメージのあるシナトラ・ナンバーをカヴァー、それも両方とも“WAY”が付く曲。何か共通のメンタリティーがはたらいているのだろうか。
 そういえば、内ジャケには沢山の写真が張ってあるのだが、その中央の少々下辺りにフランク・シナトラの「ALL THE WAY」のポスターがある。


 聴きながら書いているうちに何度か脳裡をよぎったのが、日本パンク・シーン史に燦然と輝き続けるINUのヴォーカリスト〜町田町蔵(現・町田康)。本人が何というかは分からないが、彼の歌い方は明らかにリチャード・ヘルに影響を受けていると思われる。

 最後に、本作が大のお気に入りの音楽評論家〜小野島大氏の言葉で、本作やパンクに言及したものを2つ(共に 『 レコード・コレクターズ '92年10月号 』 より)。

 「おれにとって“ニューヨーク・パンク”とはリチャード・ヘルのことだ」

 「ロックとはおれだ。おれこそがパンクだ。
                  そう言わしめるものこそがロックであり、パンクなのだと思う」


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