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FMナイトストリート 1990.8.27 XTC 1日目

 

はい、皆さんこんばんは。伊藤銀次です。さて今日から木曜日までの4日間、「伊藤銀次の夏合宿 ロック大図鑑 夏季集中講座」として、XTC、いろいろですねえ、叩けばほこりがいっぱい出ますねえ。もうとにかく含蓄の深い、しかも、世界で一番この日本で人気のあるXTCを特集したいと思います。いろんな角度からXTCのアルバムを順を追って聴いていったり、彼らに関係あるものいろいろ掘り探っていきたいと思っていますので、ロックファンの人、ぜひ最後まで楽しんで、4日間聴いてくださいね。それじゃあよろしく。Beat Goes On!

まず第一日目。今日は、XTCの初期、「ホワイトミュージック」「GO2」「ドラムス&ワイヤーズ」までの曲の移り変わりを研究していきたいと思います。

♪XTC「Science Friction」

これは1977年に発売された「3D」というEPの中の曲です。
XTCが活動を始めたのは、イギリスのスウィンドンという所で、アンディ・パートリッジ、コリン・ムールディング、テリー・チェンバースの3人で、なんと1973年、ずいぶん前ですよね。スカイクレイパーとか、スターパーク、スネイクスなどと名乗っていましたがそれがヘリウムキッズという名前になり、’75年にはデッカレコードで7曲レコーディングしたが未発表のままであるなどと云々と、これはヴァージンから出ている詳しいライナーノーツに書いてあります。まっ、こういったことは、ライナーノーツ買って読んでくれや。ヴァージンと契約した時には、キーボードにバリー・アンドリュースという人を加えて、名前もヘリウムキッズからXTCに改めています。

このサウンドを聴いていると分かるように、後期のXTCとずいぶん違いますよねえ。非常にキーボードがチープなサウンドで、どっちかというとテクノポップっていう感じだよね。この辺が初期のXTCの特徴ではないか、と思います。

続いては、’78年1月に発売されたセカンドシングル

♪XTC「Statue of Liberty」

やっぱり、相当、後期のXTCとはサウンドが違いますけどね。音も薄いですし、まっ、これは、非常に、お金が無かったこともありますし、当時は非常にライブバンドっぽいですしね。プロデューサーのジョン・レッキーもかなり影響していると思います。続いては’78年のファーストアルバム「ホワイトミュージック」の中から

♪XTC「This is Pop?」

これなんかは、割と、XTCのギターバンド的な匂いが出てますよね。不協和音的なギターのぶつけ方とか、アンディ、パートリッジ色が出ています。でも、やっぱし、アルバムの中の他の曲を聞くと、非常にキーボードの要素が強いよね。どっちかというと「有頂天」っぽかったりもしますよね。日本のグループにもずいぶんXTCの初期のアルバムが影響を与えてるっていうのを、改めて思い知るわけですが、まだまだ後期のようにひとつのスタイルを見つけて深く突き詰めていく、求道者型のXTCっていう姿勢があんまりなくて、この時代はまだ非常に初々しい、いわゆる民主的なバンドって感じなんだよね。みんなで持ち分担が決まっていて、みんなで知恵を出しながら作っているような初々しさがありますが、なぜかこのアルバムには一つミステリーがあって、ボブ・ディランの「見張り塔からずっと」が入っているんですよね。何でこれが入っているのか僕にもよく分かりませんが、聴いていただきたいと思います。

♪XTC「見張り塔からずっと」

ほんとに正体不明のアレンジで、はっきり言ってバラバラですよね。ベースのアプローチとかは非常に16ビートっぽいソウルのパターンをロックから持ってきたようなアレンジですが、キーボードはほとんどもう「イン・ア・ガダダヴィダ」ですよね。そしてアンディ・パートリッジのボーカルはほとんど原作の面影もありません。でもこれが非常に初期のころのバンドらしさが出ていると思うんですよね。まだ模索中というか。特にバリー・アンドリュースがいた時代は非常に模索とか実験が多いんですよね。
この「ホワイトミュージック」はイギリスでは38位までしかいってません。チャートの中に4週間しかいませんでした。

続いて2枚目の「GO2」を紹介するわけですが、これも21位までしかいってません。おまけに、今までお届けした3曲のシングルは、いずれもチャートインしていません。まだメジャーチャートでは受けてなかったですが、ヴァージンが契約したグループとしてはかなり期待されたみたいで、「ホワイトミュージック」が出た後、即、トーキング・ヘッズの前座をつとめたり、この辺は、セックス・ピストルズに続いてヴァージンレコードがXTCと契約したということで、パンク、ニューウェイブムーブメントの中に間違って置かれたと。これがXTCの悲劇の始まりだったんだよね。これがますます彼らをひねくれさせてしまう、ということですが。
「GO2」のジャケットがすごいんですよ。 いきなりジャケットに字がびっちりと書かれていますね。「
this is the LP record disc cover.this is writing is the design upons the cover.」ということが延々と、まっ、たいした駄文ですけど、「CDは手でさわらないでくれ」みたいな文章がずっと面々と書かれているという、こんなジャケットないですよね。それでは「GO2」に収められている4枚目のシングルを聴いてください。

♪XTC「Are You Receving Me」

さて続いてこのアルバムの1曲目に入っている曲を聴いてください。

♪XTC 「Mechanic Dance」

さて、ざっと「GO2」あたりをまとめてしまうと、このアルバムは「GO+」という初回だけ12インチシングルがおまけについていました。これは最近出たアルバムの中、けっこう「宇治拾遺集」的なやつで、今まで手に入らなかった「GO+」が入っています。でもこれは非常にアバンギャルドです。というのもこの「GO2」は、非常にダブ的なセンスとか、実験的な色彩が強くて、ファーストアルバムよりもさらにこういった色彩が強いんですよね。「GO+」はさらにダブ的な要素が強くて、この傾向はやがてアンディ・パートリッジのソロアルバム「Take Away」に引き続いていきます。

大きな特徴は、このアルバムでキーボードのバリー・アンドリュースが脱退します。代わってデイヴ・グレゴリーというギタリストが入ってきます。今まではキーボード、ベース、ギター、ドラムという編成だったんですけど、今度はギター、ギター、ドラム、ベースという編成になります。そして作られたのが次のアルバムですが、今までシングルヒットがなかったのですが、ようやく、このアルバムからヒットが出ました。「Life Being At The Hop」という曲で、イギリスのチャートで54位までしかいってませんが、やっとのことでシングルヒットが出たということです。この「ドラムス&ワイヤーズ」というサードアルバム、大きな変化はメンバーが一人代わったということもあるけど、プロデューサーもスティーヴ・リリーホワイトに代わりました。いまや飛ぶ鳥を落とすプロデューサーですけど、この当時はまだまだ無名ですね。むしろXTCと共に、彼のスタイルを作っていったと言ってもいいくらいに、当時は非常に斬新な音を作っていました。じゃあ、「ドラムス&ワイヤーズ」の中から、初のチャートインシングル

♪XTC 「Life Being At The Hop」

まったくバンド・サウンドが変わりましたよねえ。特にやっぱりギター・サウンドになったっていう感じがします。今までのキーボードとギターが妙にかみ合わずにお互いに自己主張してたようなサウンドが、一転して2本のギターが、お互いの役割をわかり合いながらサポートしているという、より熟したバンドになってきたという感じがものすごくあるんですけど、実は僕は、XTCと出会ったのはこのアルバムからでした。これ、ジャケットが非常に派手な、ブルーと、イエローと、レッドと、グリーンですよね。思わず手をのばしてしまうジャケットで、買ってしまいまして、これから僕は、ファンになりました。それ以前のアルバムは、いまいちピンとこなかったので、これ以降の「ブラック・シー」で、すっかり私はとりこになってしまいました。なぜかというと、僕はギタリストだからね。この当時、アンディ・パートリッジとデイヴ、グレゴリーという二人のギタリストの作ったサウンドは、ギターサウンドの新しさというのがあって、ギターのアルペジオとか、いろんな要素を使った新しいギターアンサンブルというのは、僕にとっては目のウロコが落ちるくらいの、アレンジの新しさがあったので、ここから思いっきりのめっていきましたけどね。

今度は彼らにとって初めてのヒットらしいヒット、これは僕もしびれまくった曲です。

♪XTC「Making Plants For Nigel」

非常にリズムパターンもきっちりとアレンジメントされてきていますね。このあたり、やっぱりスティーヴ・リリーホワイトの影響だと思います。スティーヴ・リリーホワイトは、ドラムの録り方が非常にうまい人ですよね。
じゃあ、2曲続けていきましょう。

♪XTC「Helicopter」

♪XTC「Outside World」

いやあ、「Helicopter」を聴くと、もうほとんど白井良明のギターですよね。ムーンライダースを思い出しますし、「Outoside World」のギターは布袋ですよ、これは。非常に影響を与えているような気がします。やっぱり今聴きなおして思うのは、初期の2枚と比べてリズムの枠組みが非常にしっかりしている。コリンは1枚目、2枚目でも非常にいいベースパターンを弾いてはいたけれど、ギターのリズムとあまりうまくかみ合っていなかったですよね。それが見事にきっちり曲の枠に組まれているというのは、スティーヴ・リリーホワイトのプロデュースセンスのせいでしょうね。ほんとに、スティーヴ・リリーホワイトに出会ってなかったら、このバンド、どうなってたかわかんないすよ。ここは初期の大きな剣ヶ峰だったですね。その証拠に、あの人間嫌いのアンディ・パートリッジがスティーヴ・リリーホワイトとこのあとまた「ブラック・シー」でも演ってますね。スティーブ・リリーホワイトに出会ってプロデュースセンスを盗んだと言っても過言ではないでしょうね。それと共に、スティーブ・リリーホワイトに出会ったことが、コリンのメロディーセンスを引き出すことになったのではないかと思います。「Making Plants For Nigel」の、どことなく60年代のポップグループっぽいメロディーセンスは、割ととんがってるアンディ・パートリッジじゃないセンスで、この曲のヒットによって、XTCの違う部分も出されて来てると。うまくまとめましたがね。なかなか大変だこのグループはいろんな角度があって。

4枚目のアルバム「ブラック・シー」の先行シングルかと思ってたのですが、アルバムには入らずにシングルのみとなってしまいました。’80年に発表されたシングル

♪XTC「Wait Till Your Boat Goes Doun」

♪XTC「General&Majours」

はい、いかがでしたか今日は。明日は、第二夜としてXTCの「ブラック・シー」「イングリッシュ・セトゥルメント」「ママー」を取り上げたいと思います。このあとは、「XTC拾遺集」もあリますので、ぜひ聴いてくださいね。


XTCの拾遺集、これは、「宇治拾遺集」というのがありましたからね、落穂拾いですね。XTCのメインラインを、ファーストからずっと追っていくんだけど、どうしてもこれだけではカバーしきれないものがあるわけですよ。例えばアンディ・パートリッジのソロとか、彼らのプロデュース作品とか、そういったものをできる限り拾って、一つの尺度では測りきれない、アメーバ集団XTCの音楽をいろんな角度から見ていきたいと思っています。

まずお届けするのはアンディ・パートリッジのソロ、これは1980年に「Take Away」というアルバムタイトルで一枚出ていますが、これは非常に変わったジャケットで、ビキニスタイルの人形がそこらじゅうに散乱しているという、非常にアバンギャルドなタイプで、ジャケットの紙もいわゆるアルバムのジャケットのようないい紙じゃないんだよね。どちらかというとXTCはポップな側面とアバンギャルドな側面がありますが、これはアンディ・パートリッジのアバンギャルドな、実験的な側面が凝縮された過激なソロアルバムです。僕は毎日のように、必ず朝起きてはこれを聴くようにしていました。こういったとんがった部分を聴かないと、自分がだめになっていくような気がしたもんですよね。’80年当時は。(笑)そういったことも思い出しながら聴いてみたいと思います。

♪アンディ・パートリッジ「Commashality」

これは、本当に自宅レコーディング的ですよね。まっ、当時はイギリスのスカとかレゲエの影響でしょうか、ダブサウンドというのが重宝されて非常にこれが当時は新しかったですよね。なんか倉庫で演ってるような感じがね。この曲は、まだ、このアルバムの中ではましな方で、曲らしい曲なんです。もうどんどん進んでいくと、とんでもなくわかんなくなってくるということで。このアルバムは非常にドラムに特徴があって、本当に実験的というか、自宅レコーディングという感じがするんですよね。

続いての曲も、ドラムが非常に、湯気という感じの音で、特徴があります。

♪アンディ・パートリッジ「Steam Fist Futurist」 

すごいでしょ。これ、なかなか。当時僕はフェイバリット・ソングだったんですよね。や〜、懐かしいですよね。アンディ・パートリッジは、ギタリストのとがった面を持っていますよね。この辺がよく、このアルバムに現れていますが、これば現在手に入るようですね。最近発売されたXTCの「Exproad Together」の中に、過去の未発表作品と共に、「Take Away」が入ってます。気に入った人はぜひ手に入れてみてはいかがでしょうか。

さて、今度は、バリー・アンドリュースの行方はということですが、彼は、アンディーパートリッジとは合わなかったかもしれませんが、ある意味天才でもあったわけですね。というのは、このあと転々としたあげくに作ったシュリークバック、これがなかなかイギリスでは定評を得て、あんまり売れはしませんでしたけど、一つのジャンルを作った感がありましたね。今日は「Big Night Music」というアルバムの中からこの曲を聴いていただきたいと思います。

♪シュリークバック「ブッダを狙え」

さて今度は、これも珍しいんですが、XTCの曲、たくさんありますよね。100曲くらいあるかねえ、ほかの人がXTCの曲をカバーしているかと探すと、意外にいないんですよねー。やっぱりちょっと特殊なのか、あんまりカバーしている人はいないんですが、唯一デイヴ・スチュワート&バーバラ・ガスキンが’88年に出したアルバム「As Far As Dreams Can Go」の中で、カバーしています。「ドラムス&ワイヤーズ」の中に収められていた曲です。

♪デイヴ・スチュワート&バーバラ・ガスキン「Rose Girls The Grove」
 


FMナイトストリート 1990.8.28 XTC 2日目

 はい、皆さんこんばんは。伊藤銀次です。「伊藤銀次の夏合宿 ロック大図鑑 夏季集中講座」。いよいよ2日目に入って、今日も張り切っていきたいと思います。今日は僕がXTCに目覚めた「ブラック・シー」からスタートしようと思っていますので、リキが入っております。ということで、よろしく。Beat Goes On!

♪XTC「Respectable Street」

これは1980年にXTCが発表した4枚目のアルバムのオープニングを飾っています。これは、私が、ロンドンに「ハイパー・ハイパー」のレコーディングに行った時、「Mr・グレイマンの憂鬱」という曲のイントロダクションに、このラジオの感じの雰囲気のトリートメントを施したトニー・ハリスが「(Respectable Street)みたいな感じにしていいか?」と僕に聞いたときに、思わず目の奥がウルウルとなってしまったことを覚えてますよ。いや〜、なんか好きなものは共通しているんだなという具合に、それくらいインパクトのあった作品であり、なおかつイントロをラジオボイスにしているということとか、音像から、非常に、今までのXTCとは、ちょっと、音色やら、音の組み立てが変わっていたと。まっ、前のアルバムで、ギターバンドになりましたけども、なんか非常に重厚な、僕はこれを初めて聴いたときに、古い人間ですから、「リボルバー」の再現ではないかという感じがしました。’80年代に入ってまたリボルバー的なレコードだなーという、ごっつい感じが今でも印象に残っています。プロデューサーは前回と同じスティーブ・リリーホワイト、ミキシングはヒュー・パジャムとなっていて、前回で味をしめて、今回はなかなか力作であります。

次の曲は’80年に32位までしか上がっていませんが、なかなかいい曲で好きです。

♪XTC 「General&Majors」

これは「将軍と少佐」という、第二次大戦中に軍人さんだった人がまだイギリスには結構いるんでしょうね。おじいさんになって。そういう人たちに対して、なかなか痛烈な意味を歌った歌ですけど。前回のアルバムまでは、XTCは非常にニューウェイブタッチで来てましたけれど、今回のアルバムになって、さらに言葉が60年代のレイ・デイビス的な非常にシニカルで、風刺の強い、そしてイギリスの生活が非常に反映された歌になってきたのではないかという気がします。一番驚いたのは、ニューウェイブのグループだと思っていたのが、妙に’60年代っぽい。これはいったい何なんだと。これがこのアルバムを聴いたときのうれしさであり、疑問でもあったわけですね。

次はこのアルバムで最も、リボルバー的な匂い、「ペーパーバック・ライター」とか「レイン」とか、「ドクター・ロバート」、それっぽい感じのした曲で、この当時は僕、よく聴きました。’80年にリリースされて、31位まで。これもぜんぜんヒットしていません。

♪XTC「Towers Of London」

これはほんとにいろんな要素があって、キンクスの「ウォータールー・サンセット」的な要素もありましたね。すでにこの頃から、デュークスへ行く素地があったんですね。まさかこれから何年かのちに、デュークスという、すごい ’60年代後半のイギリスやアメリカのサイケデリック、フラワーロックに対するオマージュの一大傑作を作るとは、まさかこの「Towers Of London」では分かりませんでしたが、今聴いてみても、理解力というんですか、「レイン」や「ストロベリー・フィールズ」みたいなギターも入ってますね。いろいろ分析していくと面白いものがありますね。僕なんかはこのアルバムはXTCのベスト3に入りますね。どっちかというとXTCの好きな人の中ではこれは落とされて、「次なる傑作へ行く、一歩、布石になったアルバムだ」と書いてある。布石のどこが悪い!って。なにも完成された頂点だけがいいものではなく、なかなか裾野の良さもあるんですね。僕にとっては「ブラック・シー」は非常に自分自身がアレンジメントをする時に、ものすごく影響を受けたアルバムだし、アンディ・パートリッジは、いろいろインタビューを読むと、ドラマーになりたかったらしくて、リズムアレンジが、なかなか面白いんですよね。特に今回、リズムアレンジが非常にタイトで、曲のリフとしてかっちり出来て来ているという事でこのアルバムはバンドのお手本と言うべきではないかと思います。

次のこの曲なんかは本当にビートルズファンが思わずニンマリとしてしまうタイトルです。これは結構「ブラック・シー」からカットされたシングルとしてはヒットしたほうでしょうね。’80年に16位までいっております。

♪XTC「Sirgent・Rock」

これも非常に兵隊さんっぽい歌ですね。「ロック軍曹」という感じですね。このアルバムも非常に「Paper&Iron」とか、「Living Throuh Another Cuba」別のキューバに暮らす日々という、非常に不思議なタイトルですけど、こういう戦争に対する痛烈な風刺とか、このアルバムで本当に僕はXTCの視点というか、今に至るXTCの視点がピタッと決まったアルバムだと思います。ここからスタートしているような気がします。

ちなみに私のXTCベスト3を言っておきましょう。「ブラック・シー」「スカイラーキング」ここまではいつも不動なんですが、そこから先が、「イングリッシュ・セトゥルメント」と、ま、う〜ん、・・・ですね。「オレンジズ&レモンズ」が出た時はグラっといったのですが、でもやっぱし僕、「オレンジズ&レモンズ」っていうのは、だんだん聴いているといいアルバムだけど、僕がXTCに求めているのはもうちょっと違うものみたいですね。まっ、みんなそれぞれベスト3があると思いますけど。コレクターズの加藤ひさしも「オレンジズ&レモンズ」が出た時には割と評価してたのですが、やっぱし、「スカイラーキングのほうが面白い」って言ってたんですよね。何だろうね?あのスカイラーキングの持ってるあやしげな雰囲気だと思いますよ。でも今聴くとひょっとしたら違うかもしれないよ。やっぱりその時期その時期、たとえばあの当時の加藤ひさしは割とこう「サージェント・ペパーズ」寄りだったっていうかね。例のストーリー的な、トータルアルバムに憧れていた時期だったから、そう言ったのかもしれない。またもう一回、今だと初期のほうが全然いいよと言うかもしれませんね。まっ、しょっちゅう変わるんですけどね。

さて、続いて’82年に出したアルバム、これがなんとイギリスでは2枚組で発売されたんです。15曲入りですね。ところがXTCの意向で、イギリス以外では曲が少なくなって、1枚の形で出たということですね。当時日本では10曲入りとして発売され、曲順も違ったりするという、この辺が、どうなってんだと言いたくなりますけどね。最近CD化されていますが、日本で出ているものではこのうちの13曲しか入っていないんですね。「レイジャー」と「ダウン・イン・ザ・コックピット」という曲がないんですよ。これどうしてくれるんだ一体!ねえ、15曲出せばいいじゃない!ひょっとしたら曲数多いのかな?CDの限界を超えてるのかな?そんなことないはずですよね。何でしょうね?せっかく出すのならヴァージンジャパンよ、15曲にして出してほしかった。これはほんとに、まっ、ぶつぶつ言ってもしょうがないですけど。プロデューサーも今度はヒュー・パジャムになって、サウンドがずいぶん変わりました。まずその中から、一番ヒットした曲です。’80年に10位までいっています。

♪XTC 「Senses Working Overtime」

「五感はいつも休まないで働きっぱなしだ」というような。でも非常にポップね感じですね。さて、ずいぶん音が変わりましたよね。前回よりもちょっとドライなタッチになりましたが、これはプロデューサーが代わったせいです。スティーブ・リリーホワイトの元でエンジニアをやっていた、ヒュー・パジャムがプロデュースをやるようになったんですね。

ちょっと脱線しますが、スティーブ・リリーホワイトとヒュー・パジャムは、実はものすごい人たちなんですよね。というのは、今ロックドラムっていうのはドラムにすべてゲートエコーっていうのを入れてそれを無理やり切るんですよね。あれは、この2人が作ったといっても過言ではないんですよね。ピーター・ガブリエルのアルバムでスティーブ・リリーホワイトが演ってます。それから、フィル・コリンズのファースト、あの、顔の「フェイス・バリュー」でしたっけ?あれの中の一曲目、あのスネアの音ですね。あの音がロックを変えたんですよ。’80年代入ってね。それ以降日本のものでも、アイドルのものでも後ろのドラムにゲートがかかるようになりましたけどね。これの生みの親でもあるわけですね。

このすばらしいエンジニアと、XTCは組んでるわけですよね。この辺がラッキーというか、まっ、お互いに、気に入ってやってるんだろうけどね。この辺がものすごくサウンドに大きく貢献してると思うんですけども、こういういい人と組んだから、ひょっとしたらのちのちXTCはレコーディングに専念するグループになっていったのかも知れませんよね。レコーディングの面白さをこの辺から覚えて来たんじゃないかという気もしますが。

前作「ブラック・シー」は、16位までいくヒットになりましたが、なんと「イングリッシュ・セトゥルメント」は、’82年に5位までいくという、大ヒットですよ。しかもこれ2枚組でしょ。2枚組でイギリスでしょ。それで15曲入りでなんと5位までいくという、これはまさしくXTCの最高に売り上げたアルバムですよね。人気頂点でしたね。’82年、これはシングルとしてはあまりヒットしていませんが、

♪XTC「Ball&Chain」

や〜、いい曲ですね。イントロを聴いて何人かの人が笑ったんじゃないかという気がしますけどね。やっぱしこれはベスト3かな。(笑)悪いっ!「オレンジズ&レモンズ」は次点ですね。この2曲なんかは割とXTCらしいですが、僕は当時このアルバムを初めて聴いた時、最初の曲「ランナウェイズ」が、非常にアコースティックな響きで「おっ!」と驚いたことがありますけど、結構このアルバムにの中には12弦ギターとか、アコースティックギターが取り込まれていて、今までのエレキギターのエッジのとんがった部分のXTCとは違った、ギターバンドとしての新しいバラエティが出て来たような気がして、なかなか広がりを感じたものですが。

アルバムタイトル「イングリッシュ、セトゥルメント」というのは「昨今のイギリス事情」みたいな感じの意味で「ランナウェイズ」というオープニングの曲も、「家出をした少年たち、みんな戻っておいで」と呼びかけている歌なんですよ。「カッとなっておまえをぶん殴った親父さんも今はもう後悔してるだろうし、どうか戻っておいで」と。「ナイフを持って父親を追いかける母親を抑えた君も泣かないで、どうか泣かないで」という歌で、これはウケますよね。当時のイギリス、’82年ぐらいでしょ。きっとこれは、訴えるものがあったんだと思います。そしてずいぶんそういう詩の歌が多いんですね。2曲目が「Ball&Chain」でしょ。「足かせをはずしてくれ」ということで、ちょうどいい具合ですよね。「アフター・ザ・パンクムーブメント」って言うのかな。その感じを的確に捕らえてる時期の詩だったんじゃないかと思います。しかも、もうちょっと晩年のXTCみたいにあんまり変化球が多くて難しくはなっていないという所で、2枚組でも売れたんじゃないかという気がします。

それではもう一曲、「イングリッシュ・セトゥルメント」からです。

♪XTC「No Thugs in Our House」

「うちにはゴロツキはいません」という歌でしたけどね。非常に勢いがありますよね、このアルバム。

さて、今度は' 83年にリリースされた「ママー」にいきたいと思いますけど、ママー(Mummer)っていうのは、「ぶつぶつ言う」とかいう意味のアルバムですが、タイトルがよくなかったんでしょうかねー。あんまり売れませんでしたが。これは6枚目のアルバムに当たるわけですが、リリース直前に、ドラマーのテリー・チェンバースが脱退するということになって、これは結構大変なレコーディングだったみたいで、プロデューサーはそんなに変わっていないんですが、ミキシングを変えたりとか、非常に時間とかお金もかかったようですね。そのくせ、アンディ・パートリッジは、「あまり多くの人に受け入れられなかったアルバムだ」とか、「誰が聴くのか、一体あのアルバムは」と言うふうに、あとで言ってるんですね。それはまあ、シングルっぽい曲か少なかったということを言ってますけどね。まっ、そういうことで、僕もこのアルバムはほとんど印象になくて、よくこの当時90分テープの片方にこれを入れて、片方に別の曲を入れて、よくこれがかかっていると、移動中の新幹線の中で寝てしまった記憶がありますけどもね。よくこんなのありません?最後の曲っていつも覚えてないんですよね。これは本当にそういうレコードでしたけど、いまだに僕の中ではよく分からない、とらえどころのないアルバムになってますがね。ちなみにこのあと、「ビッグ・エクスプレス」を発表してから、ライブ活動停止というふうな、なんかすごい先行きになっていくきっかけになったアルバムですけどね。

じゃあ、「ママー」の中から

♪XTC「Great Fire」

このアルバム、ほとんどベーシックにはスティーヴ・ナイという人がプロデュースをやってるんですね。この人はジャパンのプロデュースをやってる人ですがね。どうもやっぱり違った曲があったみたいで、ミックスダウンし直したり、模索しているという感じですね。スタジオレコーディングバンドへ移行していく、ちょっとスタジオのノリが面白くなってきたんだけれど、まだ試行錯誤しているということで、前回のアルバムよりも複雑になっていってる所があって、それから一曲一曲あんまりしっくりきてないような感じがします。

僕はこのアルバムの中ではこの曲がけっこう好きだったんですよ。ぜんぜんXTCっぽくないんですが、なんかチャイナ・クライシスとか、この頃のノリにあってる曲で、妙にニューエイジしてたっていうか、これだけぽつーんとあったというか。でも僕はこの曲を聞きながら、「XTCってこれから一体どうなっちゃうんだろうなー」とか、「ひょっとしたらもうこれが終わりかもしんないなー」なんて勝手に思ったこともある、ぐらいの曲なんですがね。でも今長いXTCの歴史から見るとこの曲ってまったく異色で浮いてますね。(笑) 何て言うんだろうなー、なんか浮遊感って言うんですか?フワ〜って浮いたような感じが好きで、この当時、このアルバムの中で僕はピックアップしてよく聴いた曲ですけどね。

♪XTC「Wonderland」

♪XTC「Love On A Farmboy’s Wages」 

うん、これもなかなか好きな曲だったですよね。’83年にリリースされています。シングルカットしました。

このあと残って補習をしていただきますのでよろしく。さて、明日はいよいよ3日目、「ビッグ、エクスプレス」、「スカイラーキング」、「オレンジズ&レモンズ」の3つのアルバムについて、集中講義をいたしたいと思いますので、よろしくね。


さて、XTC拾遺集、まずはXTCの、これはちょっと異色なんですが、映画で「タイムズ・スクエア」というのがあったんですよね。アメリカでのパンク・ムーブメントみたいなものを押さえていった、「パンクに燃える少女たち二人の友情物語」みたいなやつですけどね。この中にはプリテンダーズとかスージー・クアトロ、ロキシー・ミュージック、ゲイリー・ニューマン、トーキング・ヘッズ、ラモーンズ、ジョー・ジャクソンなどなど使われていましたが、その中になんと、XTCの、この曲が使われて、しかも、「タイムズ・スクエア」からシングルカットされて、ヒットしたか?してないみたいですね。(笑)映画は私見たよ。これ結構ダサくて、なんかも〜しょうがねーなー、みたいな映画でしたけどね。この中からシングルカットされた、これどこにも入ってないのかな?ひょっとして。レアやね〜。

♪XTC「Take This Town」

これは’80年のリリースですけどね。なんとなくこういうものまで聴いて、いやー、なんかいいなーなんて思えるようでは、もうほとんどXTC病ですね、私は。本当、こんな曲でもいいなーと思ってしまいますね。

さて、続いて今度は、アンディ・パートリッジのプロデュースしたグループの中から、これはもうおなじみ、ザ、ウドゥン・トップスですが、リリースされた時に、なんと、「ウッデン・トップス」ということで、日本でリリースされてる。そのまま読んだんですね。きっとこの人でしょう、「バート・バカラック」を「バート・バチャラッチ」と読んだ人は。「バート・バハラッハ」と読んだ人もいましたね。なかなか難しいですけど、「ウッデン」はないでしょう、ねえ。(笑)これは、ウドゥン・トップスのCD「ストレート、エイト・ブッシュ・ウェイカー」というのと「ジャイアント」というのが2枚組になってて「ストレート、エイト・ブッシュ・ウェイカー」の中に入っているんですがね、’85年の8月にシングルとしてリリースされているナンバーです。

♪ウドゥン・トップス「Move Me」

これはウドゥン・トップスのデビューシングルになった曲です。アンディ・パートリッジのプロデュースですが、リリースされた時にはメンバー側からの意向で「アニマル・ジーザス」という仮の名前になってましたけど、こんな名前付けて大丈夫なのかねえ?一応キリスト教の国でしょ? とんでもないことしてますけどね。ということでラフ・トレードの輝くべき第一弾、ウッデン・トップスですが、その後ウドゥン・トップスがブレイクする時のようなテンポの速い、彼ららしいサウンド、’90年代のエディ・コクランというか、このサウンドがすでにありますね。どこがアンディ・パートリッジのどの部分なのかはちょっとわかんないですけどね。そういわれて聴けば、なんか、ギターの感じがアンディ・パートリッジかなーみたいな感じもしないでもないですよね。

続いては、ウドゥン・トップスの3枚目のシングルナンバーですけど、これもまた、アンディ・パートリッジが手がけているんですが、この後、アンディ・パートリッジに代わって、プロデューサーに座るのは、なんとこれが、「スナミ・アランダ・ナガラ」というペンネームを使っていた、ジョン・レッキーですね。なんかこの辺が変ですよね。ジョン・レッキーとアンディ・パートリッジはその後一緒にデュークスを演ったりするということで、これもまたペンネームを使っているということは、なんとなくバンドのよさを生かそうというか、そういう人が後ろにいることをわからせないようにするという、最近よくありがちな日本のロックグループのデビューのさせ方に似ていますがね。ま、いいでしょう。ということで、ウドゥン・トップスの、アンディ、パートリッジプロデュース

♪ウドゥン・トップス「Well Well Well」

今度は、アンディ・パートリッジが、ミュージシャンとして参加しているアルバムから紹介したいと思いますけど、矢口博康のアルバム「ガストロノミック」、よく最近テレビなんかで使われてますけどね。1988年2月リリースですが、アフリカン・ギター&コーラスということで参加してます。いやー、でも不思議な縁ですよね。この「ガストロノミック」というのは、矢口君と、飯尾寿史さんがプロデュースしてて、飯尾君がミックスもやってるんですよ。飯尾君といえばコレクターズの一番新しいアルバムもやってますよね。このへんが、アンディ・パートリッジ、XTC、矢口、コレクターズという、妙な三角貿易が成り立つような気もしますけどね。「類は友を呼ぶ」って言いますからね。これもなんか不思議な縁ですけど。

♪矢口博康「カフ」

んー、あと20年くらいたつと矢口君も渡辺貞夫さんの領域に行くのかなー?そういう時代が来ると楽しいですがね。

ということでいや〜、実にXTC特集、すごいですよね。このXTC拾遺集が、なかなか横からしっかりのり付けしているという感じがあって、このように、非常に学術的でためになる、「ピュア・ミュージック」という言葉にふさわしい伊藤銀次の日、どうだ!初めて聴いた人もいるかもしれませんね。今日間違えて。


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