第五章 〜二つ目のパズル〜
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「せいたろう、俺さ、ずっと考えてきた。
さっきも言ったろ?セックスピストルズって海外のバンドなんだ。日本のバンドなんか目じゃないんだ。比較にもならない。知ったのは高校入学して、部活紹介で色々回って合唱部とか軽音部とか見に行った時だったよ。音楽室に色々雑誌があるの知ってるだろ?ほとんどは軽音部の奴らが置いていったボロボロの雑誌だけど。
その中にさ、世界を敵に回したイギリスのパンクバンドピストルズ特集って表紙の雑誌があったんだよ。世界を敵に回すんだぜ?近づいてくる奴らをはめてきて、毎日毎日自分の存在が嫌で嫌で過ごしてきた俺にとっては何かひっかかってさ。それであとで一人で戻ったんだ。読んでみて驚いた。本当に驚いた。セックスピストルズがいかにすごいか、どんなに圧力をかけられても負けない音楽、歌詞、服装・・・だって、国の女王に喧嘩売るんだぜ?すっげぇよ、本当にすごいと思った。
俺の部屋にベースあったろ?アレ、父さんに言って買ってもらったんだけど、メンバーの中で一番かっこいいシド・ヴィシャスって人と同じヤツなんだぜ?」
「ちょっと待ってよ、何の話をしてんだよ!言ったろ!もうお前と関わりたくないって!体育着は届けた、もういいだろ。僕に関わるな!そんな話なんかまったく興味無いんだ!」
「ちょっと待てよ!違うんだ、最後まで聞けよ!俺さ、雑誌を見つけてベースを手に入れてから、ずっと一人でベース弾いてきた。シドに憧れて。でも軽音部に入っても、俺がこの町にいる限り、好きなこと出来ないし、本当のバンドなんか出来ないって思って諦めてきた。そうだろ?きっと全員俺に賛成するし、どんなこと言っても、そうだそうだ!みたいに言って、まともに会話すら出来ない・・・・」
「だから何だよ!そんなの僕に関係あるのか!僕に何の関係があるんだよ、そんなセックスピストルズって名前つけてるからだろ!そんなバンドも知りたくも無いし、お前のそんな話にも興味ないんだ、ベース?いいじゃんか一人でやってろよ!自慢の父さんにでも相談しろよ!」
「真面目に聞いてくれ!俺、せいたろうの言葉でようやく自分が分かった。今の今まで気付かなかったけど、ようやく分かった。さっき、俺が方舟なんだって言ったろ?・・・そうだよ、俺が方舟だったんだよ。ずっと待ってたんだ、今日という日を。さっき分かった。乗り込むのは、せいたろう、お前なんだよ。アダムだ!」