第十章 〜始まりの始まり〜
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「おい、せいたろう、行くぞ!」
「あ、うん」
下駄箱で履き替えた靴がまだ履けなくて、しゃがんでいる所にいつきがやってくる。
「おっそいなぁ、外で待ってるから急げよ」
「わかってるよ。ちょっと待って、すぐ履くから。」
校舎の外に出ると、小雨が降り始めていた。
「うわ、降ってきたよ、せいたろう、傘持ってる?」
「持ってないよ、強くなる前に急いで帰ろう。」
「磯野さんって家どっち?俺ら右に行くけど」
二人で磯野さんを見ると、後ろを向いて空を見てた。
髪の色と空の色が同じ。空から降りてきたようにも見える。
磯野さんはどんな生活を送ってきたんだろう。いつから髪の毛が灰色なんだろう、いつから喋れないんだろう。きっといつきも同じことを考えていたと思う。
「ねぇってば、磯野さん、帰り道どっち?俺ら右に行くんだけ・・・」
いつきが話しかけた、その時、山の方から突風が吹いた。サッカーのゴールネットを揺らし、校舎の窓ガラスを叩く。突風だ、こっちへ来る。と思ったと同時に、砂ぼこりと一緒に風が届いた。僕ら二人、顔をそむけたその時、磯野さんへも届いた。
ちょうど振り向いた時だったんだ。風で髪の毛が舞った。僕ら片目は閉じていたかもしれない。だけど確かに見たんだ。幻なんかじゃない。