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artist : NICO
title : 『 CHELSEA GIRL 』
release : 1967年10月
label : VERVE RECORDS
tracks ( cd ) : (1)THE FAIREST OF THE SEASONS 【美しい季節】 (2)THESE DAYS (3)LITTLE SISTER (4)WINTER SONG 【冬の歌】 (5)IT WAS A PLEASURE THEN (6)CHELSEA GIRLS (7)I'LL KEEP IT WITH MINE (8)SOMEWHERE THERE'S A FEATHER (9)WRAP YOUR TROUBLES IN DREAMS (10)EULOGY TO LENNY BRUCE
tracks ( analog ) : side A...(1)〜(5) / side B...(6)〜(10)
members : NICO (CHRISTA PAFFGEN),vocals ; JACKSON BROWNE,acoustic guitar (1,2,7,8,9) ; LOU REED,lead guitar ; JOHN CALE,electric viola (5),piano,bass.
producer : TOM WILSON
arranger : LARRY FALLON
related website : 『 Nico Web Site 』(公式サイト?)、『The Velvet Underground Web Site 』(公式サイト?)




 ドイツに生まれ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(以下VUと略す)に参加する前は、イタリアで映画に出演(フェデリコ・フェリーニの 『 甘い生活 』)、パリで一流モデルとなり、イギリスでシングル・レコードをリリースし、本作以後はアメリカやヨーロッパ各地で音楽活動をし、最終的にはイギリスはマンチェスターに落ち着くも、スペインのイビザ島で死をむかえるという、よく言えば国境をまたいでユニヴァーサルな活動をしていたといえるし、悪く言えば流浪の人生を送ったともいえる彼女。

 よって“どこどこのロック”とは一概には言えないものの、本作の根底を成す音楽性や、それを作った作家陣が皆アメリカのミュージシャンということもあるので、当サイトでは本作をアメリカン・ロックに振り分けることにした。


(1)THE FAIREST OF THE SEASONS 【美しい季節】  ▲tracks
 ジャケットの退廃的な雰囲気を想像して聴くと肩透かしを喰らいそうなほど、のどかなカントリー/フォーク・タッチの(1)。しかしただのカントリーに終わるはずもなく、クラシカルなストリングスが入ることによって、ヨーロッパの香り漂う優雅な仕上がりになっている。ここでクリーンなエレキ・ギターを爪弾くのは、この曲を書いたジャクソン・ブラウン(コープランドという共作者の名もあるが詳細は不明の人物)。彼はニコがVUを脱退してソロ活動をする際にバックを務めていた縁で参加する運びとなった。


(2)THESE DAYS  ▲tracks
 引き続きジャクソン・ブラウンのペンによる曲で、カントリー/フォーク・タッチの(2)。リズムやアレンジは(1)とあまり変わらず似た雰囲気だが、こちらも耳に心地良く、穏やかな気持ちにさせてくれる。ジャクソン・ブラウンは後に自身のアルバム 『 FOR EVERYMAN 』 でもこの曲を取り上げている。


(3)LITTLE SISTER  ▲tracks
 外は寒いが室内には窓から暖かな陽光が差し込んでいるかのようなオルガン(奏者は不明)と、ストリングスが印象的なワルツの(3)。リフレインの歌詞の中に小鳥が出てくるのだけど、控えめに鳴っているフルートが、そんな小さく健気な小鳥の様子を表現しているかのようだ。ジョン・ケイルとルー・リードが、ニコのアーティストとしての自立を補助する意を込めて作った曲。


(4)WINTER SONG 【冬の歌】  ▲tracks
 幾分速めのワルツが、タイトル通り“冬”の寒さの如く引き締まった緊張感を覚えさせる(4)。スタッカート気味のストリングスが特にその効果抜群。そんな冷たい空気の中でも軽やかに舞うようなフルートがとても小気味よい。この曲もジョン・ケイルとルー・リード作。


(5)IT WAS A PLEASURE THEN  ▲tracks
 ジョン・ケイルとルー・リード、そしてニコが作った(5)。いつもの、女性としては低めの声でモッタリと歌うニコからは想像がつかない、精霊のようなファルセットがこの曲の冒頭を飾る。そして、彼女の声には若干リヴァーブがかかっている。そこにノイジーなルー・リードのギターとジョン・ケイルのエレクトリック・ヴィオラが絡んでくる。こんな雰囲気の曲を、日本のアヴァンギャルド・アーティストである灰野敬二が率いるバンド〜不失者がいくつかやっていた。
 この曲、アレンジのしようによってはエンヤやデッド・カン・ダンスっぽくもなりそうな、中世ヨーロッパっぽさ(「グレゴリオ聖歌」的な感じ)を含んでいるように思える。VUの「VENUS IN FURS 【毛皮のヴィーナス】」のデモ・ヴァージョン(5枚組ボックス 『 PEEL SLOWLY AND SEE 』 のDISC 1に収録)を聴くと、同様の雰囲気が漂っている。さらに蛇足ながら、サイモン&ガーファンクルの「SCARBOROUGH FAIR/CANTICLE」(『 PARSLEY, SAGE, ROSEMARY AND THYME 』 に収録)もそんな感じがする曲なのだが、“SCARBOROUGH FAIR”の後に付いている“CANTICLE”という言葉は“聖歌”という意味(邦題は“詠唱”となっているが)。『 PARSLEY, SAGE, 〜 』 が'66年、本作が'67年のリリース。この当時、こういった音楽を志向する傾向が進歩的なミュージシャンの間であったのだろうか。それとも、マイルズ・デイヴィスによって編み出され、ジョン・コルトレインが発展させたジャズに於けるモード手法を取り入れたのか。


(6)CHELSEA GIRLS  ▲tracks
 アンディー・ウォーホルの同名の映画のために作られた(6)。孤独、悲しみ、妖しさといった暗く憂鬱な響きと、優雅、高貴、清廉といった明るく清らかな響きが入り混じり、聴き手になんとも不思議な感情を催させる曲。他の曲と比べて若干声が前に出ており、残響感のないデッドな録音なので、まるで眼前で歌っているように感じられる。そのニコの歌に呼応したフレイズを奏でるフルートやストリングスがとてもいい。中盤やラストの方では、ほんの少しではあるが、再びニコのファルセットを聴くことができる。この曲を作ったのは、VUでは見られない、ルー・リードとスターリング・モリスンのコンビ。


(7)I'LL KEEP IT WITH MINE  ▲tracks
 明るく快活で、フォークっぽい(7)。この曲は、彼女がVUに加入する前、ローリング・ストーンズのマネージャー〜アンドルー・ルーグ・オールダムが興したイミディエイト・レコードからデビューする時に、以前から親交のあったボブ・ディランが作ってくれたのだけど、お蔵入りになってしまった曲。


(8)SOMEWHERE THERE'S A FEATHER  ▲tracks
 前曲にも増して明るく快活、そして軽快さも加わった(8)。歌詞の通りに空からゆっくりと鳥の羽が落ちてきそうな雰囲気を、優雅なストリングスが巧みに表現している。この曲も(1)(2)と同様、ジャクソン・ブラウンが書いた曲。


(9)WRAP YOUR TROUBLES IN DREAMS  ▲tracks
 ジョン・ケイルが作った、繰り返しが多い曲(9)。'65年のVUのデモ・テープにも収められていた(コツコツというカウント音とアコースティック・ギターの伴奏が付いているだけの淡々としたもの)が、バンドによって正式にレコーディングおよびリリースはされなかった。こちら(9)のヴァージョンの方が歌詞が少なく、ヴァースの順番も変えられている。ピチカット奏法を交えたストリングスが端正で上品な空気を湛えているのに、その歌詞の内容は結構残酷なもの。


(10)EULOGY TO LENNY BRUCE  ▲tracks
 以前からニコのソロ活動の際バックを務めていたフォーク系シンガー/ソングライター〜ティム・ハーディン作のワルツ(10)。彼女の声には若干深めのリヴァーブがかかり(しかもこの曲のみなぜか左チャンネルに寄せてある)、聴き手を夢幻の彼方に誘うような、そして神秘的な寂寥感に包み込まんとするような世界を作り上げている。そしてその世界には、別にそっくりという訳ではないが、フランスのアヴァンギャルド・アーティスト〜ブリジット・フォンテーヌが作り出す世界と似た空気が充溢している。生まれた国こそ違え、同じヨーロッパ人としての血がそうさせるのだろうか。
 またその声と、寂しげに鳴らされるギターとのコンビネイションはヴィンセント・ギャロの 『 WHEN 』 をも想起させる。彼は以前、アンディー・ウォーホルが見出した画家〜ジャン=ミシェール・バスキアとGRAYというバンドで活動していたこともある。こじつけといえばこじつけだが、「類は友を呼ぶ」とは正にこのことだと思わずにいられない。


 因みに、本作をプロデュースをしたトム・ウィルソンはVUの1stアルバムの1曲目「SUNDAY MORNING 【日曜の朝】」と2ndアルバム 『 WHITE LIGHT / WHITE HEAT 』 をプロデュースした人。


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