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artist : JACKS
title : 『 ジャックスの世界 【VACANT WORLD】』
release : 1968年9月
label : 東芝音楽工業株式会社
tracks ( cd ) : (1)マリアンヌ 【MARIANNE】 (2)時計をとめて 【STOP THE CLOCK】 (3)からっぽの世界 【VACANT WORLD】 (4)われた鏡の中から 【IN THE BROKEN MIRROR】 (5)裏切りの季節 【GLOOMY FLOWER】 (6)ラブ・ジェネレーション 【LOVE GENERATION】 (7)薔薇卍 【BARA-MANJI】 (8)どこへ? 【WHERE?】 (9)遠い海へ旅に出た私の恋人 【LOVE】 (10)つめたい空から500マイル 【500 MILES FROM THE SKY】
tracks ( analog ) : side A...(1)〜(5) / side B...(6)〜(10)
members : 早川義夫 HAYAKAWA yoshio,lead vocal,side guitar ; 水橋春夫 MIZUHASHI haruo,lead guitar,side vocal,lead vocal(2,10),poetry reading(10); 谷野ひとし(谷野均) TANINO hitoshi,bass ; 木田高介 KIDA takasuke (本名:桂重高 KATSURA sigetaka),drums,vibraphone(2,9),flute(3),lead vocal(8),side vocal(8),piano(8),organ(10).
director : 朝妻一郎 ASADSUMA ichirou
related website : 『 早川義夫公式サイト 』(早川義夫の公式サイト)


 当サイトを訪れた方には全く関係のないことだが、“日本ロックの夜明け”とも言える名盤である本作は、ルイス・フューレイブリジット・フォンテーヌを教えてくれた友人T君が教えてくれたのだった。

 僕らが高校2年の時、当時リリースされた不失者のアルバムを僕が持っていることを聞きつけたT君が、「不失者と似た感じがある」と言って本作を録音したカセットを貸してくれた。確かに不失者に似たフレイヴァーがあったものの、本作は相当に“キャッチー”だった。

 その数年後に「堕天使ロック」のカッコよさにハマり、『 ジャックスの奇蹟 』 をよく聴くようになっていたのだが、やはり本作に戻ってきてしまった。


(1)マリアンヌ 【MARIANNE】  ▲tracks
 ジャジーな空気の中、“エレクトリック琵琶法師”とも言うべき、サイケデリックかつ“諸行無常”なファズ・ギターが暴れ回る、ドロリとした歌謡曲ブルーズ(1)。早川義夫の情念渦巻く歌唱が凄い。
 僕が初めてこの曲を聴いた時は「なんかヴォーカルがGSっぽいな」と思ったものだが、それは当たらずとも遠からずで、「赤く赤くハートが」の絶唱が忘れようとしても思い出せないGSバンド〜レンジャーズ(またはレインジャーズ)のヴォーカリストである宮城ひろしとは若干趣きを異にする所はありながらも、その“濃密さ”に何か共通するものを感じる。その濃密さに惹かれてか、不失者、遠藤ミチロウ(全キャリアの中で幾度か)、巻上公一(灰野敬二、ペインキラーが共演)といった“なるほど”な方達がカヴァーしている。
 因みに、ここで作詞をしている相沢靖子という人は、早川義夫、木田高介(桂重高)、谷野ひとし(谷野均)、高橋末広(水橋春夫が加入する前までいたオリジナル・メンバー)らが所属していた劇団「パルチ座」のメンバーだった人。


(2)時計をとめて 【STOP THE CLOCK】  ▲tracks
 ドリーミーなヴィブラフォンと、“海の底”なオブリガードのギターが、時の流れを歪め、本当に時計が止まった世界にいるような感覚に陥る(2)。この曲には、ジャズ・ヴァイビスト〜デイヴ・パイク率いるデイヴ・パイク・セットとドアーズのミッシング・リンク的な要素があるような気がする。
 (1)とは違う趣きながら、この曲にもGS歌唱のフィーリングがある。ここでのヴォーカル(ハーモニーも)はギターの水橋春夫で、作詞・作曲も彼。早川義夫の才能ばかりがカリスマ視されているジャックスだが、他のメンバーだってこんな良い曲を書いている。僕はこの曲がかなり好きだ。
 後にサディスティック・ミカ・バンドを結成することになる加藤和彦が率いたフォーク・グループ〜フォーク・クルセダーズがカヴァー。加藤和彦は2ndアルバム 『 ジャックスの奇蹟 』 にもゲスト参加している。


(3)からっぽの世界 【VACANT WORLD】  ▲tracks
 ドアーズの「CRYSTAL SHIP 【水晶の船】」(『 THE DOORS 【ハートに火をつけて】』 に収録)の演奏にチコ・ハミルトンのグループがゲスト参加したような(3)。
 核になるメロディーは子守唄のようなのだが、(2)同様にディレイを効かせた“海の底”ギターや、幾分ジャジーな感覚を持ったフルートのおかげで、タイトル通りの“からっぽ”な空間を作り上げている。
 この曲は、歌詞の問題で放送禁止歌になっている。この曲もフォーク・クルセダーズによるカヴァーあり。


(4)われた鏡の中から 【IN THE BROKEN MIRROR】  ▲tracks
 シンシンと響くライド・シンバルを多用して醸し出されるジャジーな雰囲気のドラムスにソウルフルなムードのベース、そこに禍々しいファズ・ギターが絡んで、クールでダークな“歌謡曲・ン・ロール”──昨今の歌謡ロックではない──に仕上がっている(4)。ビートルズのいくつかの曲を混ぜて無理矢理に裏返したらこんな演奏が見えてきそうな気がする。


(5)裏切りの季節 【GLOOMY FLOWER】  ▲tracks
 情念の歌謡曲ブルーズ(5)。なんかもうヤケッパチな感じの歌い方だ。ライヴでなら自然と感情が高まって…というケースもありそうだが、様々な関係者が冷静に見守る中、レコーディング・ブースで1人、全身全霊をぶつけるような歌い方をしている光景はさぞ壮絶(滑稽?)だったろう。


(6)ラブ・ジェネレーション 【LOVE GENERATION】  ▲tracks
 (4)をもっとグルーヴィーにした感じの、タイトル・トラック(6)。このタイトルは早川義夫が著した本のタイトルにもなっている(本の方は 『 ラブ・ゼネレーション 』)。若い頃の和田アキ子がウロウロしてそうなクラブで流れていそうだ。とにかくこのノリはカッコいいの一言。途中、ドロリとした展開になり、再び元のソウルフルな8ビートになるのだが、その境目で鳴る「キウィウィウィウィウィ~~~~ン!」というギターにシビレてしまうこと必至!。
 歌詞も早川義夫ならではの逆説的なメッセイジに溢れていて、「生きてるふりをしたくないために 時には死んだふりをしてみせる」ほか、グサグサと聴き手の心に突き刺さるものばかり。確か、岡林信康が大瀧詠一抜きのはっぴいえんどの伴奏でカヴァーしていた。


(7)薔薇卍 【BARA-MANJI】  ▲tracks
 ベースの谷野ひとしが作詞・作曲したブルーズ(7)。ジャケットの“七三分けのアクエンアテン”のようなルックスからは想像できない作風だ。しかし、早川義夫が歌っていなければ結構普通の曲かもしれない。
 どちらがその名の由来として先なのかは分からないが、第一回ジャックスショウに“薔薇卍結社”というアングラ・パフォーマンス集団が出演している。


(8)どこへ? 【WHERE?】  ▲tracks
 “日本のイアン・マクドナルド(初期キング・クリムゾンのメンバー)”とも言うべきマルチ・プレイヤー〜木田高介が活躍する多重録音トラック(8)。ここではコーラスを含めたヴォーカル、ドラム、ピアノを木田高介が担当している。彼のインチキ臭さがプンプン漂うヴォーカル・スタイルとファンキーなビートが最高だ。この曲も“和田アキ子がウロウロしてそうなクラブ”に似合いそう。
 ライナーによれば、観客として騒いでいるのは、数々の名盤のライナーでお目にかかるほか、プロデューサーとしても有名な朝妻一郎氏(本作ではディレクター)。彼がドアーズの1stアルバムのライナーを書いている上に、ドアーズのステージを実際に体験していることを鑑みても、やはりジャックスとドアーズの近似性には何か関連性がありそうな気がしてならない(この曲はドアーズっぽくはないが)。


(9)遠い海へ旅に出た私の恋人 【LOVE】  ▲tracks
 どこか遠い世界へ誘う光のようなギター。空虚でありながら甘美で神秘的なヴィブラフォン。限りなく広くて深い世界で蠢く何かを表現するかのようなタムタム、シンバル、ベース。(3)と並んで“海の底”感タップリの名曲(9)。子守唄のような曲だ。ここでは早川義夫もガナッたりせずに、ただただ虚ろに歌っている。ドアーズの「END OF THE NIGHT」(『 THE DOORS 【ハートに火をつけて】』 に収録)や前述の「CRYSTAL SHIP 【水晶の船】」にも似た感じがある。
 こういった情景喚起力に優れた演奏を聴くと、“ジャックスは早川義夫で持っている”というコメントには頷けなくなる。これは“ドアーズはジム・モリスンで持っている”というコメントにも同じことが言える。
 この曲もフォーク・クルセダーズがカヴァーしている。


(10)つめたい空から500マイル 【500 MILES FROM THE SKY】  ▲tracks
 午前11時くらいの人気のない教会で静かに演奏されているかのような(10)。木田高介が弾くオルガンのみをバックに、水橋春夫の歌と朗読が綴られていく。早川義夫の作詞、水橋春夫の作曲ながら早川色は殆ど感じられない。だた、人によってはこの朗読が苦手かもしれない。


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