序曲はその名の通り,他の作品の「序」となるべき曲である。古くは,歌劇や劇のために多くの序曲が書かれた。
当初は,形式上は交響曲と区別がなかったが(現に,ハイドンの交響曲には,実質的に序曲の役割を持っていたものが少なくない),モーツァルトの頃からは,単一楽章のソナタ形式という形式がほぼ定着した。
また,ベートーヴェンによって,演奏会用序曲という,他の作品を伴わない序曲作品が創始された。ベートーヴェン以降,各作曲家によって以下のような演奏会用序曲が作曲されている。
作曲家 | 主な演奏会用序曲 |
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ベートーヴェン | 「コリオラン」「命名祝日」 |
メンデルスゾーン | 「真夏の夜の夢」「フィンガルの洞窟」「海上の凪と成功した航海」など多数 |
シューマン | 「マンフレッド」 |
ブラームス | 「大学祝典」「悲劇的」 |
チャイコフスキー | 「ロメオとジュリエット」「1812年」「ハムレット」など多数 |
ドヴォルザーク | 「フス教徒」,序曲組曲「自然と人生と愛」など |
一方,そうして序曲の内容が深化して行く中で,歌劇や劇の序としてはもっと軽い曲が好まれるようになった。そして誕生したのが前奏曲である。
これは,劇中で用いられる素材を自由な形で接続したもので,初期の頃は序曲と呼ばれていたが,のちに前奏曲という名前が一般に用いられるようになった。序曲という名前ではオッフェンバックやスッペ,ロッシーニなどが,前奏曲という名前ではビゼー,ワーグナーなどが名曲を残している。
しかし,前奏曲についてもショパンなどが,歌劇や劇を伴わないものを作曲している。