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「献堂式」序曲 ハ長調 作品124


概要

豊かな内容の一風変わった序曲

 献堂式序曲は,ベートーヴェンが作曲した最後の序曲である。作品番号は124,すなわち第9の1本前の作ということになる。あるホールのこけら落としの劇に用いられた序曲であるが,現在は献堂式という名前の劇は探しても見当たらない。それもそのはず,劇献堂式は,以前別な機会に上演された劇アテネの廃墟の焼き直しなのである。
 実は,このホールのこけら落としは1822年10月3日であったが,ベートーヴェンがこの仕事を依頼されたのは,同年の晩夏であった。これでは新しく脚本を書き起こして,それに音楽をつけるだけの時間は残っていなかった。そのため,10年前の1812年にブダペスト音楽祭のオープニングで上演されたアテネの廃墟(1812年)の脚本と音楽の大部分を使い回し,序曲と合唱曲を付け加えた形で完成させ,こけら落としに間に合わせたのである。
 ベートーヴェンは,全部で11曲ある序曲のうち,9曲をソナタ形式あるいはそれに類する形式で作曲している。例外の2曲が,アテネの廃墟序曲とこの献堂式序曲である。この曲ではソナタ形式ではないが,代わりにフーガ風の対位法を駆使したソナタ形式風の独自の形式を使用している(この形式は,ピアノソナタ第31番などでも使用されている)。

 しかし,その内容の複雑さにもかかわらず,非常に耳当たりがいい曲でもある。これは,ピアノソナタ第31番などにも共通する,ベートーヴェン後期の一つの特徴であろう。ピアノソナタ第31番との最大の違いは,ピアノソナタ第31番が全体に語りかけるような静かな曲であるのに対して,この曲はエネルギッシュで楽しい曲だという点である。あまり有名ではない曲であるが,私としてはこの楽しい曲がもっと有名になってもいいのではないかと思う。

聴きどころ

ひとめぐり

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