|
じゃ、このタイトルで「こういう曲にしてやろう」と意識的に思って、あんなに明るい、ハッピーな感じの曲になったんだ? Quan:人間はいつも怒りに満ちていて嫌になってしまうから、たまにはハッピーな曲もいいな、と思ってね。それに、ポップな曲は人の耳にすんなり馴染むからね。タイトル自体も人の興味を引くようなタイトルにしたかったんだ。 それにしても、あなた方の歌って4文字言葉のオンパレードだな、って改めて思いました。いろいろ問題も起きてるんじゃないかと思うんですけど。 Quan:えっ、4文字言葉ってどの4文字? “drop”? “song”? 4文字の言葉はたくさんあるからねぇ(笑) Ben:“this”だってたくさんあるぜ(笑)。 そういうベタなボケはもういいから(怒)。 Quan:ははは。いやー、キリスト教団体から抗議を受けた時は、さすがにしんどかったね。その人達は、僕らの曲の一節にある“ギャングが障害者をレイプしている”っていう歌詞に抗議してきたんだ。全体の意味なんて考えないで、その部分だけを抜き出して文句を言ってきた。でも僕はそのフレーズを「先進国の人間が発展途上国にズカズカ入りこんでって、やたらと自分たちの価値観を押し付けている現実」に対する比喩の意味で使ったんだよ。それが完全に誤解されてしまって……。結局“Kマート”っていう大きいスーパー・マーケットの全チェーン店から、アルバムを全て引きあげる羽目になってしまったんだ。でも検閲って面白いと思う。この放送局ではダメで、他のとこならオッケーっていう状況が、まず不思議だよね。それから、検閲に引っかかることによって、逆に宣伝効果が上がるケースもある。アメリカなんかは特に、そういう法律(憲法修正第五条)にうるさいから、すぐ検閲に引っかかって話題になって、みんなその曲を聴いてみたくなるってパターンが多いんだよ。マリリン・マンソンとかエミネムなんか、曲作るときに『じゃ、これ第五条に引っかけて儲けようぜ』って話してるに決まってる(笑)。とにかく、僕にとっては興味深いことであって、だから過激な言葉を使うのが好きなんだよ。ある言葉を使っただけで、それを聴いた人が一気に反応してくる……実際にはアルファベットを並べただけの、ひとつの単語に過ぎないにも関わらず、ね。つまり、いかに言葉と文化が深い関係性を持ってるかってことだよ。文化的背景があってこそ、特定の言葉が人の感情を逆なでするわけだからさ。 そうですね。では“ファット・コップ”で歌われている、権力と大食が結びついたイメージは、何を象徴したものなのでしょうか? Ben:あの曲は、地元で街中をブラブラしてる時に思いついたんだ。街っていっても小さいとこなんだけど、『ダンキン・ドーナツ』くらいはあって、そこを通りがかったら、店の前に一人の警官がいてさ。ドーナツが入った紙袋を抱えて立ってたわけ。肩から袖のところにたくさん肩章が付いてる制服を着てたな。で、そいつをよく見たら、超絶的に太ったやつだったんだよ。ボヨヨ―ンってぜい肉が垂れちゃってて、あれじゃ小便する時に自分のチンポコだって絶対見えないねってくらい(笑)。そいつがドーナッツをムシャムシャ立ち食いしてんの、クリームたっぷりのやつをね。思わず見入っちゃってさ、つくづくデブだなぁと感心してるうちに、“今ここで向かいにある酒屋に押し入って、店のおばちゃん襲っちゃったりしても、こいつからなら絶対逃げ切れるなぁ”なんて想像が膨らみはじめたんだ。だって、犯人追うの絶対無理でしょってくらい太ってるんだから。で、その後気づいたら、歩きながら“ファット・コップ、ファット・コップ!”って口ずさんでたんだよね(笑)。最初はパンクの曲にしようかなぁと思ってたんだけど、それだと歌詞が入りきらなくって……というのもホラ、勝手に色んなこと想像して、妄想膨らんじゃってるもんだから、すごく長い歌詞ができちゃって……だから曲もヒップホップにして全部詰め込んだってわけ(笑)。 じゃあ、その背後に意味を示唆したというよりは、実体験に基づいた歌詞なわけだ。 Ben:そう。 Quan:超リアル(笑)。 Ben:リアルっていうか、俺が実際に見たものから触発された想像の世界だよ。だって本当に強盗に入ったわけじゃないもん(笑)。 “スーパー・ストレイト”の歌詞も実際に見聞きしたことから? Quan:いや、この歌詞は一種の言葉遊びなんだ。まず“ストレイト”は「真面目なヤツ」っていう意味なんだけど、僕“お前はストレイトだね”ってよく言われるんだよ。まあ確かに僕は、ドラッグも酒もやらないし、外出もしない、まったく面白味のないミュージシャンではあるけれど(笑)。でも、僕みたいなライフ・スタイルって、逆に典型的なロック・ミュージシャンのイメージとはかけ離れてるわけで、ある意味“ストレイトじゃない”ロック・ミュージシャンってことになるでしょ? そうかと思えば、毎日9時5時で会社行って、週末になるとワインかなんか飲んじゃって、羽目外して頭の中からっぽにして、月曜からまた会社行って……そのサイクルをずっと繰り返して……いわゆるサラリーマン・タイプみたいな人も世の中にはたくさんいる。それを真面目だと思う人は少ないかもしれないけど、それも一種の“ストレイト”な生き方なんだよ、しっかり型にハマッてるって意味でね。つまり僕がこの曲で言いたかったのは、『いったい何が“ストレイト”なのよ?』ってことなんだ。 それから、間に入っている曲、というかSEのようなものですが、これに「Tokyo, London, Brisbane Part 1」と「Tokyo, London, Brisbane Part 2」ってタイトルをつけてますね。ロンドンとブリズベーンの2都市は今回の制作過程に関連している街だから分かるのですが、何故ここに東京も入っているのですか? Ben:まあ、東京、ロンドン、ブリズベーンのそれぞれの街の音を録音して、それをミックスさせているからっていう単純な理由なんだけど。よく、T-シャツで、"Tokyo, London, Paris"みたいな感じで街の名前を羅列してるようなデザインがあったりするよね。ま、世界の代表的な大都市、というくくりなんだろうけど。この曲のタイトルはそれをもじった感じのジョークも入ってる。東京とロンドンは大都市だけど、その2都市に比べてブリスベーンなんてド田舎なところが並んでいるっていう。 なるほど。ただ、たまたま東京で街の音を録音したから、ということもあるのかもしれませんが、ニューヨークでもロサンジェルスでもよかったわけでしょう? 偶然とは言え、アジア、ヨーロッパ、オセアニアの都市が結果的に並んだという事実は、あなた方がアメリカという地域に距離を感じているからじゃないかな?なんて考えてしまうんですが。 Quan:アメリカを避けたのは意識的だね。 Ben:わざとなんだ。 “フューチャー・イズ・プラスティック”は、そのアメリカに代表されるような、いわゆる現代資本主義社会を批判する内容になっていますよね。人々の生活がお金で支配されていくのは、ある意味で避けられない現実であるとも思いますが、そういう状況の中、あなたたち自身はどのような対抗手段をとっていきたいと思っていますか? Quan:それは、自分の価値観の問題になってくると思うんだ。現実と理想との折り合いをいかにつけるか。どのラインまで資本主義を受け入れて、どこまで対抗するか……ヒップホップに内包される反骨精神を実生活にどのくらい反映させるかっていうバランス感覚だよね。たとえば、曲の中でいくら資本主義を批判しても、今僕らはスターバックスのコーヒー飲んでるわけだから、厳密さを求められたら、もうその時点でアウトなんだ。まあ今の生活を全部捨てて、未開の地にでも行って暮らしはじめたりしない限り、100%の正当性は有り得ない。だから、どこら辺で理念と実生活のバランスを取るかってことだと思う。 Ben:そうなんだよね。俺の場合、この仕事をして金を稼いでるっていうのは、いつかこの金中心の消費社会から抜け出したいと思ってるからなんだよ。お金がある程度貯まったら、田舎に土地を買おうと思っててさ、家はテントでもいいから(笑)。だから今はつまり、脱出するための参加なんだ。オーストラリアっていう国は、土地も自然もまだまだ残されているわけで、その点俺達は、すごく恵まれてると思う。消費社会からイチ抜けしたかったら、それがまだ比較的簡単に出来ちゃうからね。
|