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2001年に4枚目のアルバム『Eduardo and Rodriguez Wage War on T-Wrecks』をリリースして以降、ここ日本でもようやく本格的に、そのユニークな存在が認知されるようになってきたリガージテーター。しかし実は今年のフジロックに出演した時ですでに8回目の来日だったというのだから呆れてしまう。もちろん、こういう非常識なペースで活動しているからこそ、ますます彼らのあり方が面白いのだということは言うまでもない。音楽シーンに限って見ても、今本当に面白いものは非・中心部から生まれてきているが、現在「既存のシステムとさらにタフに、しかも自然体でわたりあう新しいタイプのオルタナティヴな存在」を輩出する場所として注目すべきオーストラリア勢の中でも、やはりこの2人組は格別だ。 「アウトサイダー的な形でしか僕らは存在し得ないと思う。シーンの外にいた方がいいものが作れるんだよ」 Quan:(インタビュアーの着ているシャツを見て)そのT-シャツはどういう意味? 何のT-シャツ? いや、ただのデザインですよ。高円寺で売ってたんです。 Quan:その街はどこにあるの? 新宿から電車で約10分のところですね。 Quan:フ〜ン。 ではまず、ニュー・アルバム聴かせてもらいましたが、とにかく最高ですね。面白い! Quan:アリガトウゴザイマス。 Ben:Thank you。 タイトルがすごく変わっているのですが、一体どういう意味なのでしょうか? Ben:それは実に難しい質問だね。説明するのに本当に手間取るんだ。君の番だよ、クアン。 Quan:南アメリカの神話に基づいたタイトルなんだけど、2人の南アメリカ人、エデュアルドとロドリゲスについての神話なんだ。そのエデュアルドとロドリゲスの2人の男がインカ帝国の都、マチュピチュで伝説上の怪物と戦う、という話。タイトルにはちょっとラテンのフレーバーが欲しかったんだ。 Ben:その人なりの自由な解釈をしてもらってもいいけどね。 ほー、もともと南米の遺跡とかに興味があったのですか? Quan:そうだね。ギリシャ神話なんかも大好きだよ。最近、イタリアに行ってきたんだけど、特に伝説や神話をテーマとした芸術には心が惹かれたね。 ふーん。ただ、作品を聴いてみた限りでは、「神話」とかいったものとはかけ離れた印象を受けました。もっとハチャメチャな感じがするんですが。たとえば現代的なサウンドが鳴っているアルバムに歴史に関係するようなタイトルを持ってきたことには、どんな理由があるのですか? Quan:僕達コントラストというものが好きなんだ。光と影、というはお気に入りのコンセプトのひとつなんだ。 ……光と影というコンセプトは、このアルバムにも入ってるんですか? Quan:そうだね。 あのー、もう少し具体的に説明してもらえます? Quan:ハハハハハ。そうだねー。えっと、光というのがユーモア・センスで、影というのは音楽の持つ攻撃性、ということになるかな。 ふふふ、即興で考えついたにしては素晴らしい解答っぷりですね。 Quan:やっぱバレた? 実を言うと、このタイトルは2人の養子となった子供の物語でね……(笑)。いやいや、それもウソ。本当のところは、ディズニーの子供向けのアナログ・レコードに入っていたフレーズだったんだ。『Babes In Toyland』というレコードなんだけど、今回のアルバムでは、そのレコードからサンプリングしていてさ。エデュアルドとロドリゲスは、ある村で大騒ぎを起こしてしまう2人組の男についての話なんだ。で、T-Wrecksの部分は、アルバム・タイトルをさらに長くしたかったから付け加えたんだ。「○○対××」という感じのタイトルにすれば長くなる、と思って。T-Wrecksは、破壊者というイメージから湧いた名前のようなものだよ。ゴジラのような存在だね。 Ben:説明するのが大変だよね(笑)。単に『Four』というタイトルをつければよかったね。そうすれば、「4作目だからさ」と簡単な答で済んだのに。 (笑)でも、最終的にタイトルは何かしらを象徴しているのではないですか? Quan:アルバムの内容というか、「抑圧された状態に反抗する」という意味合いは、ある程度、込められているかもね。確かに、そのレコードから実際にサンプリングしているのは「Corpse Explosion」という曲の冒頭の部分だし。だけど、タイトルに感じられるラテンのテイスト、というのはアルバムの内容とはまったく関係ないよね。 その「抑圧された状態」というのは、具体的にはどういう状況のことを言っているのでしょうか? Quan:市場経済のこととか、一般的に資本主義に振り回されている状況のことだよ。 これまでリガージテーターの作品って、世の中に対して、皮肉というか、小バカにしているような感じの歌が多かったですよね。今作はもっと反抗の姿勢が強く前に出ているように感じられたんですが、そういうことは特に意識していますか? Quan:音楽、サウンドの感情表現が今回はかなりストレートになったとは思う。ここんとこ、音の面ではヒネクレた感じばかりだったからね。「Fuck The Goddam World」に限ってはこのアルバムでは異色な方で、タイトルのわりにハッピーな曲だったりするけど、他の曲に関して言えば、タイトルやコンセプトと曲がマッチしていて、ストレートになったと思うよ。皮肉な表現というのは、そもそも個人的な視点から発せられるものだから、実は普遍性に欠けていると思うんだ。ただ、今回も間違いなく、皮肉はたっぷり入っているけどね。 うん、ただ世の中に対してクールで斜に構えた態度ばかりでなく、今回はもう少し積極的にチョッカイを出してやろう、というような感じが出ていると思ったんですよ。さっき「ストレートになった」と言ってましたが、さらに攻撃的になる理由、きっかけみたいなものはあったのでしょうか? Ben:ただ単に今回はハイ・エナジーなアルバムにしたかったんだ。もっとエネルギッシュな感じにね。いいスピリットを受け手の中で誘発したい、というか。 では、アルバムを作るにあたって、普段の自分の生活の中で、世の中でも資本主義でもシステムでも何でもいいんですけど、そういうものに対してもう少し物申してやろう、という直接的な気持ちにさせることが何かあったりしたのではないですか? Quan:もしかしたら、自分が音楽で、少しだけだけど成功をして、その成功と直接向き合うことが難しいと感じていたことと関係があるのかもしれない。それに、成功したアルバムの次にリリースしたアルバムのセールスが振るわなかったという市場に対するイラ立ちがあったのかもしれないね。一般的に音楽に関して言えば、非常に保守的な風が最近、吹いてきているような気がするんだ。市場と消費文化、それに対するアーティストがクリエイティヴィティを失ってきているのがよく分かって、あまりいい気はしないね。こないだ、ベンと2人で成功のコンセプトと意味について、そして裕福であることと幸せであることとはどういう違いや関連があるのか、ということなどについて話し合っていたんだ。 なるほど。それで、さっき名前の出た「Fuck The Goddam World」なんですけど、「Here We Go」にタイトルを変えたみたいですね? Ben:いや、さらにそれからまた変えたんだ。「Hikikomori」というタイトルに直すつもりなんだよ。実は、つい今しがた思いついたばかりのことなんだけど。 日本語の? Quan:そう。 英語ではどういう表現になるのですか? Quan:ヒキコモリ(笑)。 Ben:英語にはない言葉かもしれないね。 Quan:僕もほとんど引きこもってるよ(笑)。 (笑)。えーと、で、そもそものタイトルは「Fuck The Goddam World」だったわけですけど、さっき言ったようにサウンドとタイトルにものすごくギャップがありますよね。これは、そもそものタイトルが先にあったのでしょうか? それとも曲が先にあったのでしょうか? Quan:タイトルが先にあって、それが曲の基本となったんだ。
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