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artist : BILL WITHERS
title : 『 STILL BILL 』
release : 1972年
label : SUSSEX RECORDS
tracks ( cd ) : (1)LONELY TOWN, LONELY STREET (2)LET ME IN YOUR LIFE (3)WHO IS HE (AND WHAT IS HE TO YOU)? (4)USE ME (5)LEAN ON ME (6)KISSING MY LOVE (7)I DON'T KNOW (8)ANOTHER DAY TO RUN (9)I DON'T WANT YOU ON MY MIND (10)TAKE IT ALL IN AND CHECK IT ALL OUT
tracks ( analog ) : side A...(1)〜(5) / side B...(6)〜(10)
musicians : BILL WITHERS,guitar,piano(5) ; ROY JACKSON(THE WATTS 103RD STREET RHYTHM BAND),piano,electric piano,clavinet ; BENORCE BLACKMON(THE WATTS 103RD STREET RHYTHM BAND),guitar ; MELVIN DUNLAP(THE WATTS 103RD STREET RHYTHM BAND),bass ; JAMES GADSON(THE WATTS 103RD STREET RHYTHM BAND),drums,percussion.
producer : BILL WITHERS with ROY JACKSON, JAMES GADSON, MELVIN DUNLAP & BENORCE BLACKMON
strings and horns arranged by RAY JACKSON.
related website : 『 BillWithers.com 』 (公式サイト)、『 Charles Wright's Express Yourself 』 (CHARLES WRIGHT & THE WATTS 103RD STREET RHYTHM BANDの公式サイト)




 井出靖の 『 LONESOME ECHO 』 の「AIN'T NO SUNSHINE」のところでも書いたけど、僕がビル・ウィザーズ本人の演奏に触れたのは、その井出靖ヴァージョンの「AIN'T NO SUNSHINE」よりも後、CDショップのワゴン・セールで手に入れたビルの 『 GREATEST HITS 』 でのこと。

 それには本作から(3)(4)(5)の3曲が収録されているのだが、全体的にはしっとりとして切ない感じのいわゆるAOR的なサウンドの中で、(3)(4)辺りはファンキーなアクセントというポジションだと思っていた。

 しかし、そんな“AOR的サウンド”の曲にも、本作や本作以前からの曲にも、何やら「土着的なものが横たわっている」という感触があり、彼の音楽性のその辺りにとても強い魅力を感じていた。

 そして再発された本作。これを聴いてみたら、モノの見事に「土着的なもの」だらけだった。


(1)LONELY TOWN, LONELY STREET  ▲tracks
 不穏な都会の路地を想像させるかの如く、怪しく蠢くようにバウンスするブルージーでフォーキーなソウル/ファンクの(1)。このブルージーさとズンドコしたビート感覚〜言い換えれば“黒人特有の土着性のようなもの”に彼の魅力のエッセンスが詰まっていて、どんなにモダンなアレンジを施しても、彼の大抵の楽曲の奥底にはこの感覚が漂っている。彼自身、「自分の音楽性はブルーズ、フォーク、ソウルで説明がつく」というような発言をしているくらいで、この曲などはその際たるものだと思う。このようにちょっとブラック・シネマ系のサウンドトラックを意識したかのようなストリングスなんかを加えたサウンド・メイクでも、彼の“3要素”は揺らぐことはない。
 そんな音楽性やサウンドから伝わる印象通りに、歌詞は安易に都会へ出ることへ夢を馳せる若者に向けての忠告めいたことを歌っている。因みに、1コーラス目の終わりに出てくる“two left feet”という言葉はリチャード・トンプソンの歌のタイトルにもなっている(『 HAND OF KINDNESS 』 に収録)が、“2本の左足”ということが転じて“ダンスがうまく踊れない”ということを意味する。
 '03年の再発CDのボーナス・トラックとして、この曲のカーネギー・ホールでのライヴ音源が収録されている。


(2)LET ME IN YOUR LIFE  ▲tracks
 当サイトの 『 MEMORIES OF PARADISE 』 で既に紹介済みの(2)。木漏れ日のようなサウンドとビルの優しさに溢れた歌が心に染み入る、和みの名曲。(1)とは対照的な印象ながら、これもまた彼の音楽性を象徴する一面。
 この曲も(1)同様、カーネギー・ホールでのライヴがボーナス・トラックとして収録されている。


(3)WHO IS HE (AND WHAT IS HE TO YOU)?  ▲tracks
 街でデート中にすれ違った男の視線で、自分が二股をかけられていることに気付いた主人公の疑念がタイトルとなった(3)。スタン・マックケニーというケンタッキー州のDJが送ってきた詞にビルが曲を付けたそうだ。
 僕が最初にこの曲に触れたのはミシェル・ンデゲオチェロのカヴァー・ヴァージョンの方なのだが、正直なところ、暗く沈みこむようなビートを繰り返すばかりのこのブルージーな曲にあまり大きな魅力を感じなかった。しかし、歌詞の意味を知ってしまうと、途端にこの暗さが逆にある種の“ギャグ”のように思えてきて笑えるようにすらなってきた。途中からの静かでありながらもスリリングなストリングスも合点がいくようになってくる。デート中に押し黙った二人。視線を地面に落とした彼女と、頭の中が疑念で膨れ上がった主人公。かなり“キリンジ兄”的な世界観。
 因みに、ミシェル・ンデゲオチェロ・ヴァージョンの方は、“HE”を“SHE”に変えないままの原詞で歌っているのだから、歌い手が男性から女性に替わってもそのまま主人公を男性と設定して訳せばいいものを、主人公を女性に設定して訳してしまっているので、話がオカシクなっている。


(4)USE ME  ▲tracks
 これもまた彼の“3要素”〜“ブルーズ、フォーク、ソウル”が顕著な(4)。シンプルでユルいファンキー・グルーヴに乗って鳴らされるアコギのジミ・ヘン・コードとクラヴィネットが印象的。ブレイクをうまく使ったアンサンブルが心地良く小気味いい。途中でフェイド・アウトになるが、ビル自身の回想録に拠れば実際はもっと続いたらしい。
 ブックレットのロイ・ジャクソンのクレジットに“Clarinet”とあるが、“Clavinet”の間違いと判断し、当サイトでは“Clavinet”にしてある。ついでに紹介してしまうと、本作を通してファンキーなドラムを聴かせてくれるジェイムズ・ガドスンは、アル・グリーンを輩出したことで有名なハイ・レーベル傘下のクリーム・レーベルからレコードを出していて、その声はソニーから出ていた 『 CREAMY SOUL 』 というクリーム・レーベルの編集盤中の2曲で聴くことができる。
 この曲、アーロン・ネヴィル、アイク&ティナ・ターナーらベテラン勢やニュー・クラシック・ソウルの旗手〜オマーらがカヴァーしているが、他にも相当な数のカヴァー・ヴァージョンがあるようだ。
 そういえば、最近('06年10月現在)の車のCM(日産ティーダ)にも使われている。


(5)LEAN ON ME  ▲tracks
 シミジミと涙を誘う、大らかなゴスペル的ピアノ・バラードの(5)。歌詞を読むと、“ビル・ウィザーズ版「YOU'VE GOT A FRIEND」”とも言えそうな曲。
 ベーシックなリズム隊に、ビル本人によるちょっとだけ厳かなピアノ、ロイ・ジャクソンの温かみのあるエレピ、優しいストリングス、励ましてくれるようなハンド・クラップ。これだけでこんなに心強い演奏になるとは。そんな演奏をバックに、不器用なまま声を張り上げるビルがまた感動を誘う。でも、シンプルな演奏だとさすがに平歌での不安定さをカヴァーできないと見えて、初めの方は部分的にダブル・ヴォーカルにしてある。
 この曲もかなりカヴァーされており、その数は(4)を上回るほどで、アル・グリーンやトム・ジョーンズ、ジョージー・フェイム、そして意外にもビューティフル・サウスあたりもカヴァーしている。


(6)KISSING MY LOVE  ▲tracks
 ワウ・ギターのファンキーなカッティングをフィーチャーしつつも、全体でグルーヴしていく(6)。アラン・トゥーサンミーターズのレパートリーだとしても全く違和感のないようなファンク。というか、完全に彼らニュー・オーリンズ勢を意識したかのような曲。途中出てくる飄々とした口笛もファンキーでいい。


(7)I DON'T KNOW  ▲tracks
 出だしの一節「夏の暖かさを感じるよ」をそのまま音で表現したかのようなサウンドの(7)。派手さや、感情的な動きはほとんどないものの、木漏れ日の中まどろんでいるような気分にさせてくれる、“箸休め”的な曲。ソフトなギター・ソロもいい。


(8)ANOTHER DAY TO RUN  ▲tracks
 リハーサル中にギターのビノース・ブラックモンが発した言葉をタイトルにしたという(8)。「現実から目を逸らさずに、向き合うんだ」といった趣旨のメッセイジ・ソング。
 チキチキとしたハイ・ハットにギターやベースが絡むリフはファンキーかつスリリングで、ブラック・シネマのサントラ的な感触もある。このリフ、「Might be just another day to run」という言葉を契機に始まるようになっている所をみると、逃げる様をサウンドで表したものと思われる。
 初めはそのリフと“木漏れ日サウンド”が交互に現れるが、ビルの歌がシャウトに変わっていくにつれて、このリフをメインに曲が展開し、そのうちホーン・セクションやハンド・クラップも加わって、ドンドン高揚感が増していく。


(9)I DON'T WANT YOU ON MY MIND  ▲tracks
 いきなりアコギによる暗いイントロが出迎える、ブルーズの(9)。初めの暗さからどうなることやらと思っていると、徐々に比較的オーソドックスなブルーズになっていくのでひと安心。歌の感触には、何となくフリー(イギリスのブルーズ・ロック・バンドの)にも似た土着的な感触もある。「ペケポコ」としたギターのトレモロのみの間奏らしきものが“?”な感じで面白い。


(10)TAKE IT ALL IN AND CHECK IT ALL OUT  ▲tracks
 リヴァーブの掛かったワウ・ギターとクラヴィネットが、モロにブラック・シネマのサウンドトラックのような雰囲気を醸し出す(10)。“8ビート化されたブルーズ”といった趣もある。全体的に怪しげな雰囲気だが、ズ〜ッとこの調子の比較的短めな曲。
 この曲もメッセイジ・ソングで、「軽々しくモノを言う前に、良く考えてみるこったな」といったようなことを訴えている。


 (3)と(8)の詞(それぞれスタン・マックケニーとビノース・ブラックモン)を除く全ての詞・曲はビルの作なのだが、出田圭氏のライナーノーツに拠れば、ビルがギターを買って作曲を始めたのは28歳を過ぎてからのことだそうだ。遅咲きも遅咲き、インスピレイションに年齢制限などないということの証左がここにある。そのインスピレイション、回想録のビル本人の言葉で言うなら、“グローバル・インスピレイション”。


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