17 May

Crunbury, NJ

South Amboyへの道

今春2nd CDを日本でリリースしたばかりのロックバンド、Phantom's Operaのキーボード以外のメンバーが住むCrazy Wolf Runchが今日の宿である。ヴォーカルのColieは今回の渡米決定直後に連絡したところ、"ぜひ遊びに来い、メンバー全員大歓迎だ、ギターも用意しておく。"ということであったので、思いっ切り頼ってしまったわけであるが、はてさてニュージャージーのどこら辺に家があるのか皆目見当がつかない。メールでアクセスの方法を訊ねると"ペン駅からニュージャージー・トランジットに乗ってサウス・アンボイまで来れば迎えに行ってやる"とのこと。日本を発つ前の日の彼からのメールにもひと言、"South Amboy"とあったっけ。

ペン駅で路線図を探すがサウス・アンボイを通っている路線が分からない。Colieが言うにはNorth Corridor線にあるらしかったが、その路線にサウス・アンボイの名前は見つからない。しょうがないので乗車券売り場でチケットを買う際に聞いてみるとする。"サウス・アンボイに行くには何番線に行けば良いの"と訊ねると、"そこの中央階段の上に掲示板が出ていて、そこに表示される"というお答え。掲示板のところに行ってみると、確かに路線、終着駅、乗り場が表示されるている。結局路線が分からないことにはお話にならないのね。今度は終着駅も参考に資料をチェック。ようやく目指す名前を見つけ安堵。問題は日本と違って折り返しの電車が入線しないと、乗り場の番線が表示されないこと。こっちの人は慣れてるから、皆モニターを見つめて待っていたかと思うと一気に目的の乗り場に駆け出していく。私も一度はつられてホームまで駆け降りたが、係員に聞いたら違う路線だと言われてしまった。

結局その電車とほぼ同時刻に入線した電車が正しかったようで、何とか発車時刻寸前に駆け込むことが出来た。次の課題は、そう、駅名のアナウンスを聞き取れるかである。各駅の看板は見えたり見えなかったりとあまり頼りにならないので、車内アナウンスと車掌の肉声に注意しながら進む。"次はSouth Amboy"。よっしゃ。車掌も確かにSouth Amboyと連呼しながら通り過ぎていった。列車がスピードを落とすと、私は荷物を抱えて出口へと向かったのだった。

勢いよく出口から飛び降りた私。殺伐とした、と言うか何もない、無人駅の光景にちょっと唖然とする。しかし本当に唖然としたのは駅の看板を見た、その時であった。"Perth Amboy"。ああ、この期に及んで駅名を聞き間違えてしまったのである。それにしてもこんな駅があると知っていない限り、これだけ発音が似ていたら聞き間違えるって。まあ目的の駅は確かに次の駅で、そこまでは電車で5分ほどらしい。ただし次の電車は約1時間後。ならばと駅前を眺めやるとタクシーの待合所が。ところがここのタクシー、乗り合いだったようで、私の他に運ちゃんの友人らしき人、薬中じゃないの、って感じのおっさんと同乗させられてしまった。しかも同じ方向に行く人を集めたわけではなく、たまたま居合わせた人を乗っけていくだけのシステムなので、あっちこっち立ち寄って時間の掛かること。まあぼられもせずに目的地に着けただけめっけものかも知れないけど。

サウス・アンボイについてColieに電話を入れる。ところがこの後電話インタビューが控えているということらしく、迎えに出られない様子。たまたま居合わせたベースのEricのお兄さんが代って迎えに来てくれたけど、無人駅で夕方、一人ぽつねんと待つのは、あまり良い気持ちとは言えなかったなあ。それ程柄のよろしくない黒人の少年達がいつの間にかに側まで寄って来ていたのには、ひやっとさせられた。


サイトーG、Crazy Wolf RunchでHidieになる

車は高速に乗ってColie達の待つ家へと向かう。車中、Ericのお兄さんと野球の話や音楽の話をして和む。彼は前日、Crazy Wolf Runchであったパーティに来てそのまま泊まっていて、私からの電話が入った際、その場に居合わせたので迎えを買って出てくれたそうである。それにしてもどんどん田舎へと向かっていることにちょっと不安を覚える。

いよいよ周囲は牧場ばかりとなった頃、見えてきたのがこの光景。Colie達はまさしく牧場の家"Runch house"を借りて住んでいた訳である。

家に入るとColie、ドラムのBobが寄って来て歓迎、そして質問の嵐。私の名前がどうにもアメリカ人には発音しにくいようだ。かと言ってアメリカくんだりまで来て"G"と呼ばれるのはしのびない。女の子の渾名となってしまうが"Hidie"と呼んでもらうことで落ち着く。因みに名字の"Saito"の発音については結構楽勝らしい。

Colieに持参した土産を渡す。日本酒はビンも含めて気に入ってもらえたようで、かなり喜んでくれた。休む間もなく家の中を案内され、どこでも好きなところに立ち入って良いと言われる。プライベートな時間が欲しければ彼の部屋を使ってくれとも。で、そのColieの部屋に連れて行かれた訳だが、シンセ、音源、デジタル・プロセッサー、DATにミキサーと一通り揃えてあり、彼のソロCDもこのシステムで録音したようだ。さっそく彼がためているアイディアが披露される。そしてサウスポーの彼は、愛用のギブソン・レス・ポールを手にしてそこにギターを加えていく。しばらくそうやって彼の音楽を聴いていたが、今度は右利き用のギターを私に手渡し弾けという。最初は私がどの程度弾けるか見当がつかなかったのであろう、キーやスケールを教えてくれてこれで弾いてみろと言っていた。なんだやるじゃないかと思ったからか、色々なマテリアルを流してこれ弾いてみろあれ弾いてみろとやり始め、気がつくとしっかりDATに録音までしていた。聴かれるにはちょっと恥ずかしかったけど、"お土産"と言って私にくれたので一安心。


親しき仲に残り物あり

Colieがデートに出掛けるという。"え、お客さんが来ているのに"、と日本人なら良識を疑う場面であるが、そこはアメリカン。"冷蔵庫にビールあるから勝手にやってくれ、聴きたいCDがあればリビングでガンガン掛けていいぞ"、てな調子である。"うーむ、夕食はどうすりゃいいんだ"と考えていると、"腹は減ったか"と聞いてくれた。朝食ったきりなので結構減っていることを伝えると、スパゲッティを用意してくれるとのこと。しばらくギターを弾きながら待っていたが、気になってキッチンに入っていくと"チンッ"てな音が。どうやら作り置きを温め直したようだが、フレッシュなブドウもつけてサーブしてくれたし、ありがたくいただくことに。しかし、皿を前にしてみると酸っぱい匂いがするんだな、これが。フォークで口に運んでみたが、紛れもない酸っぱさ。せっかく用意してくれたのでもそもそ食ってると、Colieが彼女を連れてきた。奴っさん、"これがMaggie"、と紹介するや長々とキッス。酸っぱいスパゲッティ食ってる俺の立場は、てな位しっかりとやってもらいました。そうして彼らはデートへと。残された私はスパゲッティへと戻ったわけだが、そこにやってきたのがBob。"なんだ、飯食ってるのか。俺達はこれからメキシコ料理を作ろうと思ってるんだ"。そしてひと言"因みに、それ、残り物だぞ"。Bobの立ち去った後、さすがにお腹が心配になった私は、スパゲッティをあらかた残し、フレッシュなブドウを平らげることに専念しましたとさ。

後日、ニューオーリンズの柴田女史に残飯事件の顛末を話すと、ホームステイの経験を持つ彼女もこうしたことがあったらしい。彼女の見解によると、アメリカ人というのは残り物を出すことで、"君とは残り物を出せる位、親しい仲なんだ"、ということを表現するらしい。ホントかいな。


再び空腹を抱えて寝床へ

Bobが彼女を伴って買い出しから戻ってきた(ということは私、着いて数時間後には一人で留守番させられていたということです)。腹は減っているか聞かれたが、食ったばかりで減ってないと答える。リビングでBobお薦めのCDを聴きながらギターを弾いていると、何やら良い匂いが。しばらくするとBobの彼女がビールやTacoの様な食い物を運んできたので、とりあえず"Thank you."と言ったら不思議そうな顔をされてしまった。二人が席についたところを見てみると、なんのことはない、彼らの分だけしか用意されていなかったわけで気を利かせて礼を言ってしまった私は思わず赤面。しかし食べられないとなると、食いたくなるのが人の性。日本人の遠慮の精神がどんどん邪魔になってくるのを強く感じる。それでも追加のビールをもらって、彼らとの会話を楽しむ。

食事を終えたBobがPhantom's Operaの3rd用ベーシック・トラックを聴かないかと言ってくる。早速聴かせてもらったが、これが出色の出来。元々Phantom's Operaは、Bon Joviのリズムセクションがいたとか1st.アルバムまでMichael Romeoという光速ギタリストが参加していたことで話題となったバンドではあるが、最近テイチクからリリースされた2nd CDは、ポップなアメリカンロック、そこにクイーン風味付けありというような感じで、予想外に洗練された音楽性に、この手の音楽を最近聴いていなかった私も驚かされたのであった。ところが、次回作のベーシック・トラックはドラムのサウンドが俄然良くなり、全体のサウンドにもエッジが効いて、さらに何と言っても楽曲が'60~'80年代のロックの美味しいとこを昇華させたような名曲揃い。全く音楽性の違う私だが、この音には興奮させられたなー。新作の完成が待ち遠しい。

さて、そんなビールと語らいのひと時も、長旅の疲れと空腹によって終わりを告げようとしていた。私は象が墓場に向かうかのごとく、地下の練習場備え付けのソファに向かい、深い眠りへと落ちていったのであった。


18 May

Eric"The Rock Star"

頭の霧をはらえぬまま寝床を抜け出る。リビングに入るとColieがよく眠れたかと聞いてくる。彼は朝から元気である。Maggieとサイクリングしてくるとのこと。冷蔵庫にビールが入ってるので勝手にやっててくれというが、そんな気分じゃない。しばらくすると今度はBobが起きてきた。これからジョギングに行ってくるので戻ったらパンケーキを焼いてやる、と天使のようなお言葉。それにしても健康的な奴等である。

テレビを見ながらぼーっとした頭でギターを弾いていると、昨夜は仕事で帰りが遅かったというベースのEricが起きてきた。起き抜けに見知らぬ東洋人がカウチでギターを弾いているのを目にしたら、多少は驚くんじゃないかと思っていたが、ぬぼーっとしたキャラクターが魅力的な彼、全く動ぜず。メンバーそれぞれ個性的でそれぞれに人を惹き付けるものがあったが、ほんとEricは一緒にいて楽しい奴でした。因みにこの写真左がドラムのBob、右のロック・スター然としたのがEricである。この写真は家の裏手のトウモロコシ畑で撮ったのだが、"夏になったら夜のうちに忍び込んで、トウモロコシが食べ放題だぜ"と嬉しそうに笑ったEricの顔が忘れられない。彼はビリヤードの名手でもあり、夜になってから簡単に手ほどきしてくれた。ビリヤード台の置いてある周りの壁に貼ってあった彼のブロマイドがザック・ワイルドというかランディ・ローズ風であったのでそれを伝えると、嬉しそうに"元々自分はギタリストで、以前オジー・オズボーンのカバー・バンドをやってた頃、近くに住んでいるザック・ワイルドが自分たちの演奏しているバーにやって来ては朝までオジーの曲をジャムったもんさ。"と話してくれた。


ジャム、メァーン!

彼らの家の地下にはバンドの機材がセットアップされていていつでも音出しが出来る羨ましい環境。その日の午後はここで多くの時間を過ごすこととなるのでした。Colie、Ericと3人で延々ジャムっているとBobもやってきて叩き始めた。Bobはブルースが大好きで、実際にブルースバンドでも演奏しているということだったが、本当に気持ちの良いプレイをしてくれるグッドなドラマーだ。残念ながらこの日は日曜日で、働き者の彼はハウスキーピングを目一杯やらなければならないということだったため、何曲もプレイせずに仕事に戻ってしまったが、彼とはもっと沢山一緒にプレイしたかった。

ColieはPhantom's Opera以外に自分自身の音楽創造も進めていて、以前には"New Age Blues"というソロCDも出している。所謂伝統的ブルースとは全く違うが、彼なりの解釈で新世代のブルースを、というコンセプトだ。このジャムの後彼が寄って来て、"お前、なかなかジャムれるな。New Age Bluesだぜ。"と、ご機嫌であった。渡米直前の連絡で私が現地のミュージシャンと演奏したいと伝えたところ、Phantom's Operaが手合わせする、光速ギタリストMichael Romeoも呼ぶぜ、ということで、すでに彼らのアルバムを聴いて音楽性を垣間見ていた私は、正直な話一体彼らと何を一緒にプレイすれば良いのか不安と期待の入り交じった気持ちではありました。しかし、光速ギタリスト氏が来られなかったことが吉と出たかは分からないが、そんな不安は何処へやら。メンバーによると"You like Gary Moore!"だそうであるが、それはたんに二段積アンプによる大音量でブルースを弾いたからじゃないか、と我思う。

Colieには本当に気に入られたみたいで、この日の夜、キーボードを弾きながら彼が歌うのをビール片手に聴いていたところ、"ハイディ、いっしょにギターを弾け。"と言われ、二人きりでしばしジャムる。


フリスビー、ファーン!

その日の夜は、BBQパーティを開いてくれるということであった。買い出しや下ごしらえを終え、皆がぞろぞろと裏庭へ。近所に住む彼らの友人も加わってHochey Soccerとかいう所謂蹴マリみたいなことや野球、フリスビーをして日の暮れるまで遊ぶ。

パーティに音楽はつき物であるが、まだ明るいうちは裏庭に面したEricの部屋のスピーカーを窓枠まで持ち上げてガンガンにテープをかけ、日が暮れてからはちょっと遠慮気味に、Maggieのワゴン車のドアを全開してカーステレオでBob曰く"最高のパーティ・ミュージック"であるところのグレイトフル・デッドやオールマンズのCDをかけまくる。

ジャムや裏庭での遊技を通してすっかり打ち解けた私、彼等に"Phantom's Operaのニュー・メンバー"ということで、撮られたのがこの写真です。BBQもとっても美味。この頃になってようやく彼等相当私に対して気を使っていたんだ、ということに気づく。私がアメリカ人の家に泊めてもらうのはこれが初めての経験、しかも立板に水の英会話力は持ち合わせていないところに24時間体制でのアメリカ人との暮らし。彼らにしてみると私が楽しめてないんじゃないかと、気になって仕方なかったようだ。本当に楽しんでるよ、と言ってもアメリカ人みたいにそれを思いっ切り表現できないのでなかなか分かってもらえなかったようです。

BBQの後、リビングでは70年代のコメディ映画"Airplain"をテレビでやるというのでBobとEric、Maggieが待機中。"馬鹿馬鹿しい映画なんだな、これが。"とBobが教えてくれる。実際馬鹿馬鹿しい映画ではあったが、皆で見るとそれなりに楽しいもんであった。私は翌朝には家を出ることになっていたので、BobとEricと話をするのもこれが最後。二人に礼を言い、土産に持ってきた千葉神社のお守りを"ジャパニーズ・モジョだ。"と言って渡す。"身に振りかかる不幸を取り払ってくれるもので、スティーヴィー・レイも3rdアルバムのジャケットで腰に付けていた"と話すと"じゃ、何でスティーヴィー・レイのヘリコプターは墜ちたんだ。"とBobに突っ込まれる。"い、いや、このモジョは一年間有効で、年の変わり目に買い替えるんだ。彼のモジョは有効期間を過ぎていたんだ、きっと。"と言おうかと思ったが、"何だ、お前等の神様は一年契約なのか。"と突っ込まれそうで言うのを控える。しかし素直なEricは、"日本では、交通安全を願って車のバックミラーにぶら下げたりするんだ。"と話したら、いきなり外に出ていって彼のサンダーバードの中でもそもそやっていたかと思うと戻ってきて、"早速ミラーに付けてきたぜ。"と嬉しそうに言ってくれた。


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