第三章 〜「主」〜
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二階へあがるといくつかの部屋があっていつきに教えてもらった通り、突き当たりに「いつき」と小さな木の表札がかかっていた。それは小学校6年生の時に図工の時間に作ったものだった。僕も持ってる。たしか中学校にあがったら自分の部屋のドアにかけるために作ったものだっけ。そっか、いつきも同じ小学校だったんだ。どうして今まで同じクラスになったことがないんだろう。小学校から中学、そして高校1年まで。ふと考えていると驚くことがおきた。下から階段を上がる音がする。誰もいないと言ってたのにこの家には誰かいる。ひょっとして警備員かもしれない。僕が入ったことがバレてしまったのか?心臓が僕の体全体をゆらす。どうしていいかわからずいつきの部屋に飛び込んだ。8畳くらいの大きな部屋にいつきの部屋はあった。机の上に体育着がある。あっ!と思って僕はとっさに体育着を手にした。もし見つかってもこれがあれば、なんとか許してくれると思ったからだ。でも、足音は確実にこの部屋を目指して近づいてくる。まだ心臓の音が体を揺らしている。隠れる場所がないかと部屋を見渡してみる、押入れの横に違う扉がある。取っ手からしてこの和風の家に合っていない。けど、頑丈そうなこの扉なら。幸いにも少しだけ開いてる。
重い扉をあけて中へ隠れる。迷っている暇は無い。足や手に何かが当たった。痛みをこらえながら扉を同じように少しだけ開けて、じっと息を潜める。すると、ほぼ同時に部屋に誰かが入ってくる。今までこんなに緊張したことは無い。それもそうだ、僕は今、無断で人の家に入り、無断で部屋に隠れているんだから。ゆっくりと足音が部屋に響く。するとその誰かがしゃべった。