第三章 〜「主」〜
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第三章 ~「主」~
いつきの家に見とれて歩き始めると、入り口すぐ横に警備員室があった。
もう少しで見つかる所だった。景色に溶けこんているためか警備員室がわからなかった。僕の家ほど大きな警備員室も真っ白の外壁をしていた。四角いそれは小さな方舟そのもの。意外にも窓はひとつしかなかった。大きくて鉄格子がかかっている。もちろん色は白。息を潜めながら覗いて見る。数人の警備員が見えた。
「あっ」
思わず声を少し出してしまった。気付かれはしなかったけど、そんなことってあるのか。白い制服を着ている。警備員と分かる服なのに真っ白い。雪が積もった夜に見るときっと区別はつかないだろう。一人も笑っていない。怒ってもいない。感情が無いみたい。そんな僕も恐怖も感じなかった。いや、感じることが出来なかった。感情の無い人はまるで森の樹のようだった。そこにあるのは誰もわかるのに気に留めもしない。樹に囲まれた森では樹には気付かないんだ。そうか、白い方舟の世界では白い服が一番目立たないのかも知れない。